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「ゆ、ゆ……幸村っ!」
「なんだ?弦一郎。」

遅れた分の勉強を取り戻すため弦一郎の家に通うようになってどれくらい経ったかは分からない。ただ季節は既に夏から冬に代わり始めていた。
問題集と格闘していた俺に掛けてきた弦一郎の緊張したような声。

「そ……そのだな。今日はなんの日だ?」
「…………。」

思わず手を止めて顔を上げた。

今日が何の日か。そんな問い掛けが弦一郎の口から出てくるとは思わなかったからだ。

今日という日が余程大切なのだろう弦一郎の緊張のしっぷり。俺が忘れているのか、とでも心配しているのだろう。何せ弦一郎の家に来てずっと勉強しっぱなしだ。弦一郎の異変に気付きながら放っておいた俺も俺だろう。

俺はゆっくり微笑みを浮かべて口を開いた。




「全く俺には分からないよ。弦一郎。」
「なっ………!!!」


言われたって分かる訳がない。今日が何の日かなんて全く知らないし、思い当たる点なんて何もない。再び問題集に視線を落とそうとしたらダンッと大きな音と共に弦一郎が立ち上がった。

「なぜだっ!こんなに大事な日だと言うになぜ忘れる!たわけが!!」
「知らないったら知らないんだ。頼むから勉強させてくれないかな。」

それを余所に俺は座ったまま弦一郎を見上げる。こんなに怒鳴るほど大事な日だっただろうか。今日というこの日は。

「知らない訳がなかろう!俺が今日をどれほど大切にしていると思っていたんだ!」
「………知らないよ。だから何の日なんだ?今日は。」

イライラと募り始めた苛立ちをなんとか抑え込みながらコツコツとシャーペンでノートを叩く。弦一郎は弦一郎で爆発した怒りでフルフルと震えながら俺を睨む。


と言うより多分悲しんでいるんだと思う。




すぅっと弦一郎が息を吸う音が聞こえて大きな通る声が部屋に響いた。









「結婚記念日だ!!!!」









「………………はぁ?」


誰と、誰の。

というか何故結婚していない弦一郎が結婚記念日を、しかもその話を俺にしてくるのかが理解出来ない。



また何か良からぬ誤解をされた気がする。



「今日はお前と俺の素晴らしき結婚記念日なのだ。1年という日は実に早いものだな。」

「………………。」


「それをお前は忘れたなどと…。」



つまりは……あれだな。



付き合い始めて1年、って言いたいんだろう弦一郎は。やっと落ち着いたのか再び床に腰を下ろした弦一郎はしなっと萎れたように背中を丸くする。
取り敢えず、説明が必要だな。


「……弦一郎。それは結婚記念日とは言わないんだよ。」
「………。………うむ。」

確かに記念日だが記念日違いだ。顔を上げて俺を見る瞳には切なさと疑問を映して、説明を素直に聞く弦一郎。大丈夫だ。コイツは理解すればちゃんとやる。


「それに、な。弦一郎。」
「…………うむ。」


ポンと肩を叩き自覚さえする張り付いたような笑みを弦一郎に向けた。


「付き合い始めて1年目、は今日じゃなくて明日だ。」
「…………うむ。」




・・・。




「何ィィィイイイイ!!!」


結局、弦一郎はテニス以外の全てに置いて空回りしている傾向があるとしみじみ思った。

それからしばらく弦一郎にちゃんと説明した事で勉強がはかどならかったのは言うまでもない。




Fin..(?)



あきゅろす。
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