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「手塚、誕生日おめでとう。」
一日24時間の中でたった二回だけの時計の針が丁度重なる時間──もちろん太陽は沈みきった日が新しくなる方だ──目の前にいた人物にそう告げられた。
他人の物とは思えないぐらい堂々と俺のベットの半分を占領し、寒いと布団に身をくるんでいる格好で、だ。
「誕生日プレゼントは何がいい?」
それでもごく自然と優しい笑みを浮かべながら聞いてくる姿にはどうしても愛しさを感じてしまうもの。
しかし、それとこれとは話は別。
「……布団が欲しい。」
「布団?また随分実用的なものを…。」
ううむ、と考えるように眉を潜める人物、不二。本気なのか分かっててやっているのか。
「違う!布団を返せと言っているんだ。」
「あ!ダメだって!!寒いの嫌いなんだって!」
駄々を捏ねる子供のように布団を掴んで離さない不二。こうゆう時ばかりは力がある。勿論布団が破れない為にという俺の配慮があるからなのだが。
「ダメ。これはダメ。僕が貰ったの。いくら誕生日だからってこれはあげない。」
「いつからお前の物になったんだ。」
布団をぎゅ、と抱き締めながら俺を睨む姿はまるで俺の心配など皆無。明日風邪をひいたら間違いなく不二のせいだ。
「………、悪いが俺も寒いんだ。返して貰う。」
「ぇ…ぁ…、…わっ…!」
布団をぐいっと引っ張ると簡単に不二とセットで俺の体を暖める範囲まで近づく。もぞもぞとその中に入るとやっと落ち着く暖かさに包まれた。
「………もうっ。手塚には誕生日プレゼントあげないから。」
その自分の思い通りにならなかった現状が気にくわないのかふん、と不二が顔を背けた。
が、それも予測の範囲内。
「不二…。」
「知らないよ。」
「………プレゼント、」
「あげないって言っただろう?」
「お前が欲しい。」
「だから…………。…は?」
いくつか言葉を交わしていたもやっと不二の視線がこちらに向く。予想だにしていなかったのだろう。丸い目を俺に向けて、ただ珍しいものでも見るかの如く。
「…て……づか……?」
確認するように不二の指が頬をなぞりそのまま自然と唇が重ねられた。愛しさと、それに伴う甘さ。
「珍しいね、手塚から誘ってくるなんて。」
気付けば不二は俺の上に股がる形になっていて、その切り替えの早さに少しばかり驚いた。
「………好きだよ、手塚。愛してる。」
再び重ねられた唇は愛しさから。愛を確認するような甘い甘い始まりの合図。
1年にたった1度の、俺のワガママを不二に聞いて貰える日。
Fin
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