[携帯モード] [URL送信]
1/1
手から離れる白い紙。小さい頃夢中になった紙ヒコーキを中学2年生になった今、再び作って屋上から投げるように空へ飛ばした。
仁王の願望を宿すことなかったその紙ヒコーキは直ぐに地面に落ちてしまったけれど、代わりに屋上に入ってきた人物に代わり以上の愛しさを感じたのもまた真実だろう。


『Sweet,Sweet』











「………仁王、くん…?」

戸惑いがちの柳生の呼び掛けに仁王は答えない。ただ空をじっと見つめて、時折投げたばかりの紙ヒコーキを気にするだけ。しかしそれでいて柳生が隣に並んでもさして否定も表さない。普段なら目を細めながらどうした、と問うてくれる顔は今の仁王にはない。

「……その…すみません。」
「…………。」

やはり仁王は何も答えない。いや、答えられない。渦巻く感情とどうしようもないものがぐるぐると回るのが仁王には分かっていたからだ。涼しげな顔で空を見ている仁王のその心中は穏やかなものなどこれっぽっちもない。

「…………。」

そんな普段と違う仁王の原因を分かっている柳生だからこそ柳生は強い言葉が出せないでいた。そしてまた、自分が仁王に言える言葉の少なさに眉を潜める。好きな相手だからこそ言えのだ。それは仁王も同じ事。互いに互いと向き合っているはずなのに、どこか顔を反らして言葉を詰める。

“好きだから”“好きなのに”“好きだけど”様々な捉え方があるだろう。しかし、少なくとも二人には──仁王と柳生にとっては“好きだから”の行動だった。

「………勘違いは、しないで下さい…。」

お願いですから、と一言。それだけは伝えたい。その一心での一言。しかし仁王が発した台詞に柳生は目を見開く。意味が全く分からずに、柳生はただ仁王を見た。

『勘違いしとるのはお前さんじゃ。』と。

何も表情など変えずに真顔でその台詞を放った仁王はまるで怒っているようで、まるで切ない表情。しかしそれが自分への感情ではないと柳生は思う。

「取り乱したのは俺じゃ。お前さんは何も気にする事はない。」

ぐっと手に力を込める。その左手の指の付け根は赤紫に変色していた。痛々しい左手を柳生は見つめ先程の状況を思い出す。



呼び出された教室に行くとそこには生徒会と名乗る男子生徒がいて、上履きを見て直ぐに彼が先輩なのだと理解する。彼の言い分はこうだ。『最近君は風紀を乱している輩と付き合っている。』と。柳生には理解し難い事でもあり、また直のだと気付いく。そしてぐいっと手を引かれ、……唇を重ねられた。理解出来ずに柳生は目を見開き動きを止めた。不本意ながらその隙を取られたのだ。ちゃんと教えてやらないとな、などと勝手に理由を付けながら教室の壁に押し付けられ、ワイシャツの前を力ずくで開けられ……。



そこから先は余りに必死で柳生はしっかりとした状況を掴めていない。ただ、羞恥と彼の声と、それと普通男として生きている限り味わう事のないハズの痛みが離れない。途中で仁王が助けに来てくれなかったら、と考えるだけでゾクリとした。

それが仁王が怒りを露にした理由。普段おちゃらけていて、素直な感情を表に出すことなど滅多にない彼が、自分の為に怒りを表してくれた。実はそれが柳生には嬉しかった。

「………なん?」

仁王の手をじっと見つめていた柳生に疑問を抱いたのか不可解そうに眉を潜めて仁王が柳生を見つめた。

「いえ……、ありがとうございます。」

ふるりと首を振って柳生はその痛々しい手を取った。やわりと包むように。そして目を細めて柔らかい笑顔。

仁王は襲われるカタチになった事実を知らない。柳生が彼と体を交わっている現場を見たのだ。しかし仁王は柳生を攻めたりしていない。つまり仁王の言う通り勘違いをしていたのは柳生だったのだ。『仁王は自分が彼を好いていたるではと思われたのか』と言う柳生の思いこそが、だ。

そのお礼代わりの表情。それに仁王の心臓がドクンと高鳴った事は柳生は知らない。


「……お。」

ふいっと顔を反らしてしまった仁王の目線の先には赤い髪の男子生徒。手に持っているのは白い紙ヒコーキ。それをまじまじと見つめている姿を仁王は楽しげに見つめている。

「丸井くん……と紙ヒコーキ……ですか…?」

仁王の手を掴んだまま覗き込むように仁王と同じ場所を見つめる柳生。

「数学の解答用紙じゃ、……お前さんの。」
「なっ……!」
「冗談じゃ。」

おちゃらけた様子を取り戻した仁王は独自のやってやったという笑みを柳生に向け、思わず手を離してしまった柳生から手を遠ざけ背を向けた。

「ほら、行かんと部活始まってるぜよ?」

ふるふると小さく震える柳生を尻目に仁王はさっさと屋上のドアを開けて階段を降りてゆく。

「仁王くんっ!!」

思わず爆発したような怒りを声に乗せながら柳生は仁王を追いかけた。





***

「……あ、柳生。ほら。」
「…………はい?」

その日の部活終了後。柳生は丸井にくしゃくしゃの紙を渡された。一応は四つ折りにしてあるのだろうが、明らかにシワが多い。一応は受け取った柳生の肩を丸井は真剣な面持ちでぽん、と叩いた

「大丈夫だって。………俺はなんも見てねぇし、さ。」

いまいち状況が掴めない柳生。取りあえず、と柳生が紙を開くとそこには見慣れた文字の配列。『柳生比呂士』と書かれた文字の横に91と赤い文字。さらにその上に『二学年一学期末テスト』と書かれていた。明らかに自分の解答用紙だ。更に柳生が目を配らせると右下に柳生が書いたのではないモノが書かれていた。比呂士、雅治と書かれた両方の上に三角。間に1本戦。俗に言う相合い傘だ。

それを柳生を見つめたまま、ぐしゃりとその用紙を握り潰した。犯人など分かりきっている。焦点は目立つ銀髪に合う。







「仁王くんっ!少し来たまえ!!」


今日もまた平穏な日々。それから1年後も変わらない関係が続くことは2人は予想もしていないし、思わなくもなかった。







Fin...


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!