[携帯モード] [URL送信]
1/1
不二は自分の住む宮殿を後に、とある場所に向かっていた。隣国の宮殿。そこに用事があったのだ。
実際隣国と自分の国とは仲が悪い。しかし、今日、自分の国の王が、隣国の兵士に殺された。自分の宮殿の庭で、だ。
そうなってしまったら、この国の生命は隣国の王に委ねられている。まぁ、こうなるように策略に乗ったのは自分だった、と小さく苦笑を洩らした。


最近、自国の衰えと隣国の反映は底をしれないぐらいだった。栄える隣国に比べ、貧しくなる自国。嘆く国民。それを見て、苦しむ自国の王。傍にいたからこそ、彼の苦しみは分ったし、どうしようもないぐらいだった。

そんなある時、王、跡部は決意を口にした。「俺は死のうと思う。」と。実際そんな意味の分らない事を口にする人だとは思っていなかった。自分を犠牲になるという事は、自分の国が滅亡するという事で、つまり結果多くの国民を危険にさらすことになるからだ。それでも跡部の決断は揺るがないものだった。これ以上、貧しさで国民を苦しめる訳にはいかない、と。強い瞳が不二を見据えた。
そんな跡部の信念に負けた不二はひとつの花を跡部に差し出したのだった。緋色の薔薇を。

「‥‥本気か。お前。」
「もちろんです。」

瞳を見開く跡部に、不二はひとつ笑みを向けた。緋色の薔薇。互いに花言葉という隠れた言葉を知っているからこそ伝わる会話。そう、告げた。


――――陰謀。







「ふふ、無事に事は運んだようだね。不二。」
「そうなるように仕向けたのは君だよ。幸村。」

宮殿に入ると不二は後ろから声を掛けられて足を止めた。そこには自分が用の合った人物がいて、いつ自分の後ろにいたのかと溜息をひとつついた。全く悪趣味な男だと、そう思う。

「君も同罪だ。」

そう、近づいて囁かれて、不二は微かに体を強張らせた。そんな事実分っていた。自国の王の命を奪ったのは、幸村に使えるあの手塚という兵士でも、幸村でもない。他でもなく、自分なのだ。自分以外ではない。
敵国に自分は寝返ったのだ。自国に忠誠を誓う振りをして、王と手を組んだ。そうすることで、王の命を奪おうと持ちかけた。

しかし、幸村はそう簡単に自分を信じはしなかった。王の一番傍で生きてきた不二の言葉を。そんなもの予想済みだったけれど。理由もしっかりと持ってきた。王にずっと不満を持っていた、と。その言葉を言う度に心が軋むように痛かったのを無理に堪えた。

その後付けの不満が終わるころ、幸村はようやく微笑んだ。本当は幸村はそれが嘘だと分っていたのかも知れない、と不二は今になって思う。

「いいよ。君と手を組もう。」

楽しげに歪む口と瞳。「そのかわり」と続けてくる幸村。それが不二の運命を変えることも、きっと幸村は分っていたのだろう。近づいてくる微笑み。青い髪がヒラリと靡く。

「俺のモノになりなよ。」

顎を掬われて視線が混じった。



不二はあの時の事を一生忘れないと、そう感じる。これから先、どんな事があろうとも、この幸村と手を組んだという失態を。

事実、物事は上手くいったのだから、どうってことはないのかも知れない。しかし、全てが終わった今、心に残る感情に、不二は苦しみしか感じられない。それは偽った所で揺るぎない事実。現実。



幸村精市に堕ちた、という現実。




幸村のモノになると契約をした。それはただ上辺だけのつもりだった。それなのにいつの間にか上辺だけでなくなったそれ。抱かれれば抱かれるだけ、愛しいと心が告げた。
しかし、幸村が度々告げた、「お前は裏切り者だ」と。その現実に涙が溢れた。これは慕っている人を殺すためなのだと。そう、陰謀の途中。それなのに、こんなに恋焦がれるだなんて馬鹿げている。それでも揺るがない自分の心。相手に憎しみを覚えれば覚える程、それに比例するように愛しいと感じる。終わりなき感情のスパイラル。

あぁ、そうだ。

ふ、と、今になって不二は思い出した。あの日、あの時王に差し出した緋色の薔薇の花言葉。「陰謀」。そう、確かに緋色の薔薇の花言葉は「陰謀」だった。しかしそれ以外にも意味があったのだ。「灼熱の恋」という花言葉が。

それを予知していたのかもしれない、と不二は軽く自分に嘲笑した。




そして、不二は自国の庭から持ってきた薔薇を幸村に差し出した。

「これを渡しにきたんだ。」

差し出したそれに幸村は楽しげに微笑んだ。面白い、と口にしなくても分る言葉。いつだってこの男はそうで、苛立ちが増す。

「いいね。もっと俺色に染まれよ。不二。」

不二は幸村を睨むように見据えた。明らかに敵意を剥き出しにして。しかし、そこに愛情が隠れている事を見せないように。

渡した薔薇は黒赤。花言葉は。




死ぬまであなたを憎みます。




fin
















このお話はもう一つの「rose」と繋がったお話になっております。
ですが、一応これだけでも読めるのではないかと思われます。たぶん…。

ですが両方読んだ方が筋が通るのではないでしょうか、という感じになりますので、もしよろしければもう一つのroseも読んでみてくだされば幸いです!


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!