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重い目を開いたら真っ暗だった。実際そんな事なんてあるはずがないのに、明らかにそこは闇。また、それの正体が自分の睡眠を妨げていた事も明らかであった。

「なんだよ、カルピン……。」

越前はその正体を軽く退けて背を向ける。それはほぁら、と鳴いた。


今日は日曜。それも部活がない。そんな日の、まだ朝早く。しっかりと時計を見た訳ではないので何時なのかは越前には分からなかったが、眠気という体内時計ではまだまだ朝早くという事を告げていた。


――せっかくいい夢見てたのに。


自分に都合の良い夢なんてそうそう見れるものではない。まして、恋人の不二が出てきた夢とあれば尚の事である。




「ねぇ。越前?」

首を傾げて俺の名前を呼ぶ。

「今日僕の家誰もいないんだ。だから、さ。」

そしてあからさまに誘ってくる。白い肌に映える少し紅潮した頬。俯いた瞳。俺はニヤリと笑みを浮かべて、その人を押し倒した。

「ねぇ、どうして欲しいの?言ってよ。」

下がる眉尻。戸惑って潤む瞳。それでも服の裾を掴んで離さない指先。そんなカオもそそる。

「えっと………あの、えち――」



そこで目が覚めた。正直今日の夢は自分でも不二に夢を見ている節がある事は自覚していた。あんな不二なんて越前は一回も見た事がない。実際は不二の方が何枚も上手で、いつもあの含みのある笑みを浮かべて、こっちがたじたじになってしまうのだ。けれどもあんな、女性的な仕草を見せる不二もたまには良いのかもしれない、と越前の脳内ではぐるぐると思考が巡る。


再び続きが見たい、と瞳を閉じてみる。


「………。」


ふぁ、と大きなあくびをひとつ。しかし越前の眠気は戻ってこない。代わりに苛立ちが沸き立つ。
背中に当たる暖かい日差し。暑くもなければ寒くもないこの気候。静かな部屋。こんなにも睡眠日和なのに、こんなにも寝たいと思うのに、寝よう寝ようと思えば思うほど越前の眠気は彼方へと遠退いてゆく。



「ほぁら。」
「あー。だからなんだよ、カルピン。」

苛立ってガバリと体を起こした。その拍子で越前の睡眠を妨げていた正体は、ひらりとベッドから下りて部屋の外へと逃げて行く。主の不機嫌さに気付いたらしい。構って欲しかったのかな、なんてちょっと可哀想な気持ちを残しつつ越前はベッドから下りた。


今日は休日。とりあえず明日までだった英語の宿題を軽く済ませて、なんて越前の思考は今日の予定を組み立て行く。


そんな思考を遮るは唐突に鳴る携帯のバイブ音。机の上でヴーヴーと煩くなるそれはメールの受信音だった。朝からなんだ、なんて文句を言いたくなるのを抑えて越前は携帯を開いた。

「……………え?」

携帯を開いたそこには予想にもしていなかった表示があった。


「着信10件・メール受信8件」



――――しまった。



そう、今日は休日。不二とのデートの約束の日だった。案の定着信は全て不二から。せっかく家に招待してくれたのに自分という奴は。一気に越前の思考はフル回転し始める。

朝早いと思っていた現在の実際の時刻は12時。約束の時間は10時。もうこの時点で大分の時間ロスなのだが、とりあえずこれからロスは許されない。なんて言ったって相手はあの不二なのだ。

とにかく直ぐ様着替えて必要最低限の荷物を持って家を飛び出た。






「で、この遅刻かい?仕方がないな、越前は。」

くすくすと笑う不二の今日の機嫌は良いもので、割とすんなりと遅刻を許して貰えた。なにか今日は特別な事があったのだろうか、とベットに腰掛けるその顔を見上げたら、軽く笑って返されたので反射的に視線を外した。

不二の家に着いたのは1時、約3時間の遅刻だ。それをこうも簡単に許されると、逆に調子が出ない。貼りついた笑みで、見るからに不機嫌そうな態度を取られる事さえ覚悟していたのだ。だから恥を忍んでまで今日の夢の事まで話したのだ。それなのにこんなに機嫌が良いだなんて不合理だ。

「なんかあったんスか?」

あまりに不思議でそれを問うてみた。再び視線を上に上げたら、不二はきょとんとした顔をした後、直ぐに微笑みに表情を緩めた。

「何で?」
「え、…いや。なんか機嫌良いから。」

逆に問うてくる不二の表情があまりに綺麗に綻んでいたから、思わず心臓が跳ねる。そんな顔されたところで、越前は微笑みを素直に返せる訳でもなくて、その感情をどこへ向けていいか分らなくなる。

「そうだな、…越前が僕の家に来た事、とでも言っておこうかな?」

返事になっていない返事を返してくる不二。心の内で「返事になってない」とだけ呟いて、また視線を不二から離す。ギシリ、とベットが弾む音がした。そして近づいてくる影。耳元に近づいた、唇。

「ねぇ、再現してあげようか。」
「………え。」

思わず顔を上げたそこには含みのある笑み。なにかを企むような、その奥に何を映しているのか分らない青い瞳の奥には自分の顔。

「今日ね、僕の家、誰もいないんだ。だから、さ…。」

そして頬に滑る細く白い指先。孤を描く瞳は、挑戦的で、あぁ、と納得して、その人をベットに押し倒した。

「まだ昼間っすよ?」
「続きが見たいんだろう?」

自ら越前のシャツのボタンに手を伸ばして順に外していく不二は、やはり夢の中の不二とは違って、挑戦的だった。


――――あぁ、やっぱり先輩はこうじゃないと。


「ねぇ、どうして欲しいの?」

ニヤリ、とひとつ笑みを挟んで耳元で囁く。不二はその夢を意識しているのか、ぴくり、と恥ずかしそうに反応して見せる。まるで、越前を煽っているかのように。

伸ばされた手。そのまま首に回る腕。一度視線を絡めて、伏せられた瞳。

「えっと、……あの、…越前‥‥…。」











抱いて‥……?




fin...














あとがき。


そんな訳で3周年記念の2つ目の作品リョ不二になりますー!
いや、リョ不二って私の中で新しくて(割とメジャーなのに)、なかなか難しかったですが、書き始めると楽しかったです(笑)

越前といえばカルピン!カルピンは外せない!という私の勝手な思い込み(笑)

もうひとつの蔵不二がパラレルなので、こちらは日常にしてみました。そしてほのぼのという。
ほのぼのしたお話好きなんですよねー!


あ、不二がご機嫌な理由は、まぁ、、、考えてはありますが、そこにはあえてあまり触れませんでした。



そんな感じで!
今回この企画に参加してくださった皆様、そしてこの作品を読んでくださる皆様、なによりひつじネットに来て来て下さる皆様に感謝の意味を込めて。

ありがとうございました。

天海夕奈。


あきゅろす。
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