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「宍戸さん。はい、どうぞ。」
「お、サンキュ。」
いつもの見慣れた風景。正レギュラーの試合が終わると必ず鳳は宍戸にタオルを持ってくるんや。例えそれが自分の試合の後かて、必ずそれをする。そうある事が当たり前やから。まさに幸せな恋人同士。せやけど……。
「…なぁ、自分らカップルみたいやって言われるやろ?」
「…………は?」
「…………え?」
この反応。まぁこの後の二人の反応なんて誰かて想像ぐらいつく。怒鳴りながら不機嫌になる宍戸と、そんな宍戸の様子を伺いながら否定する鳳。そう、二人とも付き合うてはないねん。
「……自分はどう思う?」
たまたま隣にいた跡部に声を掛ける。唐突な質問に訳が分からんと怒鳴りながらもちゃんと答えてくれる跡部は優しいと思う。少しな、ほんの少し。いや、やっぱそれは可哀想やから“めっちゃ優しい”にしとこう。
「焦れったい。」
嫌そうな顔をしながら答える跡部の台詞はいつもより少し、冷たかった気がする。
「せやかてお互いに大切に思うから何も出来んとちゃう?」
「あぁ?大切に思うなら自分で大切にしてやれよ。」
素朴な疑問にさらりと返してくる跡部。確かに、と納得してまう俺にも驚きや。チクリと何かが胸に引っ掛かる。
そんな話をしながら部活終了を全員に告げに跡部は俺から離れて行った。
確かに跡部の言う事も一理あるんやけど……果たしてそれが二人に出来るんやろか?仲良さげに部室に帰る二人を見つめながら、無理な気しかせんこの状況を整理する。
「………。」
「……まだ考えてやがるのか。」
振り替えるとまたもや跡部の姿。今日はヤケに構ってくれるんやなぁ。
「大体、テメェが心配するような事じゃねぇだろ。」
「そうなんやけどなぁ…。気になるねんあの二人。」
そして呆れた溜め息。もちろん俺やなくて跡部の。そう呆れられても心配なもんは心配やん。興味本意とかともちゃう、本心で心配しとるんや。興味本意だったら呆れられてしゃあないとは思うけどな。
「……お前。」
「な………、ん?」
問い掛けに答えよう思いながら部室のドアに手を掛けるも思いもよらない出来事に全ての行動を止めた。跡部もそんな俺の様子に気付いてか眉を潜めた。
「……し、宍戸さんは……俺の事、……嫌いですか…?」
ドクンと心臓が跳ねた。俺の手はドアノブを掴んだまま動かない。中には多分鳳と宍戸しかいない。沈黙を数秒。それぞれため息を時間差でひとつずつ。
宍戸の参ったようなため息。
すぐ後に俺のやっぱりっていうため息
少し間を置いて跡部の呆れたため息。
さらに間を置いて鳳の安堵のため息。
部室の中では二人の明るい声。俺はドアノブから手を離した。
「そない心配することなかったな。案外あっさりしてるもんや。」
ドアに背中を預けて空を見上げた。朱に染まり始めた空にぽつんぽつんと雲が浮かんでいる。手をのばせば届きそうなそれは、けして手にすることは出来ない。せやから俺は手を伸ばそうとはせんかった。
「忍足。お前鳳の…」
「ちょっと散歩いってくるわ。二人のイチャイチャが終わるまで。」
言いかけた跡部の言葉に被せてドアから背中を浮かせた。人の話を聞けと眉を寄せる跡部。そんな顔せんでもええのに。
「…次鳳に顔合わせた時、ちゃんと二人を応援しなきゃならんからな。」
手を軽く振りながら一方的にその場から立ち去る。仲の良い二人やから、俺みたいのが邪魔したらあかんのや。
吹き抜ける風はただ俺の横をすり抜けるだけ。
Fin...
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