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「よく考えたもんだな。本当。」
「そうでもないさ。」
跡部の膝の上には手塚。優しく頭を撫でているが、その手塚の瞳は何を捕らえる事はない。手にはしっかりと黒い羽を握る。
幸村の手の中にはひとつの瓶。中には蒼い光を発するモノが入っているらしい。瓶は蒼く輝く。
「俺様が人を褒めてるんだ。素直に受け取りやがれ。」
「ふふ…、そうだな。」
闇に溶け込むような世界で、二人の男の笑みが蒼い光に照らされる。
「しかし、俺もこんなに上手くいくとは思ってなかったんだ。」
苦笑しながら幸村は瓶を見つめた。ありがとう、なんてわざとらしく呟きかける。そんな様子を見ていた跡部は思わず表情を引きつらせた。こんな相手と手を組んでいたのか、と。
「それが、魂ってヤツか?」
「あぁ、綺麗だろ?」
天使にも堕天使にも魂がある。人間同様に。本来ならば浄化されるべき魂だが、もちろんそれを手に入れる事も出来る。どうするかは幸村だけが知ること。それは跡部にも方法は分からなかった。
「不二の魂は特別だからな。より輝く。」
『不二』その言葉に手塚はピクリと反応した。幸村を見上げる。
あれが、不二…。
ただ、それだけが手塚の脳内を循環する。
「お前はそれが欲しかったって訳か。」
「そう、魂なら俺を拒否する事はできないからな。」
クスクス、と堪えるように笑う幸村。敵に回さなくて良かった。跡部は先ほどからそれを嫌と言うほど目の前の男に感じている。
「跡部とは違うって事さ。」
手塚と跡部を交互に見遣る。跡部は手塚を望んだ。ただ、幸村が不二の魂を望むと口にした時点で幸村は跡部に問いかけた。魂を束縛する方法を教えてもいいと。しかし跡部はそれを拒否した。跡部は魂よりも肉体を求めたからだ。
「ふ…じ……。」
ポツリ、と切ない声が響いた。手塚の頬には透明の雫。黒い羽を強く握り、掠れた声を出す。跡部はそんな手塚に思わず目を見開いた。
不二が消滅してから、手塚は何も感じなくなった。跡部がどんな極楽を与えようとも、逆にどんな痛みを与えてもただ、瞳の焦点は合わないままだったのだ。
「…跡部、だから言っただろう?魂は大切だって。」
幸村はそんな跡部の様子に笑いながら、す、と手塚の前に瓶を置いてやった。
「手塚、聞くといい。」
低い声で手塚に視線を合わせる。ゆらり、と揺れる幸村の姿はやはり透けている。もちろん瓶も。瓶を掴もうと伸ばした手塚の手は何を掴む事もなく、ただ地面へとつく。
「不二は君が欲しかった。だから俺に頼み込んだんだ。手塚の側に行かせてくれと。」
とめどない涙。溢れるもそれを拭う事さえしない手塚。何を思ってかそんな涙を跡部が拭ってやる。
「俺は許可したよ。だから、手塚の記憶を消して不二の側に居させてやった。理解は出来るな?」
手塚は何も反応しない。しかし焦点はしっかりと幸村に向いている。それを肯定だととり、幸村は話を続ける。
「だがそれは、生きている間だけ、だ。死んだら終わり。」
跡部も幸村の話に耳を傾ける。跡部さえ聞いていなかった話。思わぬ真相に言葉を失う。自分の知らぬ所でそんな事が…。
「だから、魂は俺が貰う。手塚には渡さない。」
完璧なる断定。いや、命令と言ってもいいくらいの切り捨てるような言葉。手塚の涙は再び跡部の膝に落ちる。
「手塚も元居た場所に戻った。これが本来あるべき世界だ。」
優しく微笑んだ幸村。子供に言い聞かせるように、しかし、都合のいい理屈を並べて。
「ま、これを言いに来ただけなんだ。じゃあな、跡部。良い生を。」
クスリと何かを企む様な笑みを跡部に向けて幸村はゆっくりと消えていった。瓶と共に。
「はっ…。魂だけもどうかと思うぜ?幸村。」
そして幸村は二度と跡部や手塚の前に姿を現さなかった。
Fin...
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長かった…!!
みなさまお疲れ様です!
果たしてこれを全部読んでくださる方はいるのだろうか。
長編苦手な私がここまで書いたことが奇跡なさえ気がします。でも短編にするには内容が薄すぎてしまうといいますか(いや短編なんですが……。)、なんだか長くなってしまったわけです。はい。
本当は前編・後編にまとめようとさえ思ったのですが上手くいかず、最終的に乾はどこにいったと。乾好きの皆様ごめんなさい。
そして不二塚なんですが…何やら幸村と跡部が強くて強くて…。幸不二&跡塚みたいな…。どうゆう事でしょうこれ。明らかに幸不二好きなのとある方の影響を受けているんじゃないかと。うむ…。
まぁ、無事完結してよかったかな、と。はい。
長々とありがとうございます。
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