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不二が手塚を置いて天使狩りに行ったその晩。不二は大量の血痕と血の匂いを身に纏って帰ってきた。全てが敵のモノではない。不二はケロリとしているがかなり深い傷。肩口に矢が刺さった
のを無理矢理に抜いたのだ。止めても止めても血が溢れる。

「大袈裟だよ、手塚。大したことないから。」
「しかし……っ!」

不二の肩口を布で押さえつけ、血を止めようとしてもなかなか止まらない。布は不二の赤い血を吸い込んで生暖かい。
何かを言おうとした手塚に穏やかな笑顔を向け、何をせずとも手塚を黙らせる。

「大丈夫だ。」

それだけ。何の根拠もなくそれだけを繰り返す不二。どうしてそんな事が言える
のか。今の状況で。

「…不二…。俺はお前を死なせたくはない。」
「だから死なないって。」

クスクスと笑う不二の表情からは嘘は見えない。

「ねぇ?乾。」
「…あぁ。」

気付くと不二の後ろ──手塚の視線の先に乾が立っていた。乾も返り血を浴びて服も肌も赤くなっている。

「…お前も天使狩りにいったのか…?」
「当たり前だろう?75%の堕天使は狩りに行かされる。それに今回は大きかったからな。」

………何を?

手塚の中で新たな疑問が浮かび上がる。75%。老人、赤ん坊、病人、怪我人を抜いた数字だろう。

俺はどれにも当てはまらない。なら何故。

何故俺は天使狩りに呼ばれなかった…?


しまった。不二と乾がそんな表情をしたように手塚には見えた。

「……どういう事だ…。」

答えのみを求める強い瞳。それ以外映さぬような瞳。

「手塚は──」
「不二っ!」

言葉を紡ごうとした不二を否めるように乾が不二の肩を引いた。一瞬な沈黙の後、ふわりと不二が微笑む。乾を見上げ肩に置かれた手をそっと退ける。

「いいよ、もう。もう全部終わりにしよう。」

その不二の表情に何も言えなくなってしまう乾。不二がそう考えるのならそれに従うしかない。今止めた所できっと不二は一度決めた事は変えようとしないから


「手塚もそろそろ聞きたくて仕方ないだろ?隠すのだって面倒になってきちゃったし。」

嘘つけ。小さく呟いた乾の声を不二は聞かなかったフリをする。今まで守るために隠してきたモノをこんなに簡単に口にする事になるなんて不二も乾も思ってい
なかった。

「いいんだな?手塚。」
「………あぁ。」

少しの間は微かな躊躇い。そんな間に苦笑しながら不二は乾を見遣る。その視線に隠された言葉に乾は頷く。

「て───ッ!」

言おうと不二が口を開いたのとほぼ同時に大きな爆発音。思わぬ邪魔に全員の鼓動が跳ねた。

「まったく……。そんなに僕に話させたくないのかな…。」
「仕方がない。昨日あれだけ暴れたんだ。87%の確率で反乱だな。」

ため息を付きながら不二とやわりと布で肩口を掴む手塚の手を解き、乾と爆発音のした方に飛んでいこうとする。手塚もそれに続こうと思うも不二に咎められた。来てはいけない、と念を押される。

一人取り残された手塚。ひとつ息を飲んで二人の後に続いて行った。
ひとり置いていかれて、ただ待っているなんて今の手塚に出来るはずもなかった。








***




「さて、どう壊そうか……。」

真っ暗な闇の中小さく幸村が呟く。口の端を吊り上げて片手には闇に浮き上がる白い羽。




***


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