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桜の舞う世界。大きな桜の樹。ひらり、ひらりと淡い色の花が散る。広がる荒野はそれを思わせないほど。桜の樹があるのが不思議なぐらいだ。アスファルトは凹凸を繰り返して、建物だったものはただの岩になり、剥き出しになった地面の灰色が目立つ。

「無理言って悪いな。」

樹の下には佇む幸村。薄い緑の寝間着の肩に立海の大きなロゴの入ったジャージ。ジャージは穏やかな風に逆らう事なく身を任せて揺れる。桜の樹を見上げる幸村の笑顔は穏やかで、その藍の瞳に散る花びらを映しながら視線を落とす。

「気にする事はない。俺はお前の手伝いをしただけだ。」

桜の樹に背中を預けて微笑むのは真田。全身をジャージで包んだ姿は誰もが見慣れているままなはずなのに今の彼はどこかいつもと違う雰囲気がある。愛しい者を見る故か、幻想的とも言える美しくも儚いモノを見る故か。それは真田にしか分からない。いや、もしかしたら真田にも分からないのかもしれない。
『一度だけ──、もう一度真田と二人だけで桜が見たい。』

そう幸村が切実な声で言ったのは少し前の事。真田が見舞いに来た時に真田にだけ見せる本音。

もちろん真田は今の幸村に無理をさせる事なんて出来ない。本当は幸村と二人でやりたい事なんて山のようにある。でもだからこそ今は出来ないのだ。真剣な表情で首を横に振る真田に『そうだよな』と崩れそうな笑顔を浮かべた。その笑顔に担当医の許可がでたら、と約束をせざるを得なかった。


そしてそれから数ヶ月。担当医が近くにいる事を条件として外出許可が出た。

初めは駄目だと一点張りだった担当医。桜なら病院の庭にもある、それでいいじゃないか、と。しかしそこら辺にある桜では意味がない。幸村にとって意味を成すのは真田と二人だけで見る特定の桜の樹。我が儘だなんて幸村自身が一番分かっていた。分かっていてもどうしても見たかった。多分、心の内で諦めがあったのだろう。
そんな幸村を見かねて渋々の許可が降りたのだ。




「どうしても、この桜が見たかったんだ。」

幹に手を当てて気を見る幸村。手の隙間から見えるのは『全国三制覇』の文字。幸村が入院してから少し後、ここで二人で誓ったのだ。真田は幸村が居ずとも部を進化させ続けると、幸村は真田に部活を任せて病気を克服すると。

「なんだか随分懐かしい気がするよ。」

指を滑らせて深い人工的な傷を確認する。

「………。」

真田は何も答えない。何も答えられない。同意する気持ちはあるのだ。されど同意するのは誓いを忘れたという意味にほぼ等しい。つまり幸村は……。

タイミングを図ったように困ったように微笑んだ幸村。そして空に視線を浮かせる。なびく黄色いジャージと青く細い髪の毛。淡い色に浮くその姿はなんとも印象的だ。絵の中の世界。そうとさえ言えそうだ。





沈黙は互いを理解し合う故の愛しさからくるもの。決して居心地の悪いものではない。時間が穏やかに流れる。



不意に真田の眉間にシワが寄る。微かな異変。そんな気がした。気がしただけ。

「─────っ」

その直後にジャージを強く握って息を乱す幸村。眉を潜めて不規則な呼吸。頬を滑る水滴。そしてやっと予感が事実だったと察知する真田。


──ドサッ…──


ヤケに幸村がゆっくりと倒れた。はらりと通していない袖を揺らして。

目の前には幸村がうずくまって微かに体を震わせている。

聞こえる自分以外の呼吸音。

判断が、一瞬出来なかった。


そんな思考が真田の頭の中を数周した後、幸村に駆け寄る。宙にトレードマークの黒い帽子を投げ出して。


「幸村ァァっ………!!!!」



桜の樹。舞い落ちる淡い花びら。幻想的な世界には二人。真田の声は近くに止まっている車の中の担当医にまで聞こえた。


───真田───、





Fin....



日記で言っていた夢で見た真幸。私が実際に夢で見たのは幸村が倒れる直前らへんから最後まででした。

幸村はどうなったのかとかその桜の樹になにがあったのかとかそう言う事は分からないので、あえて付け加えずに。

結局幸村は桜が凄く似合うと思いつつ。青にピンクって凄い相性のいい色だと思うんですよね。うん。

さて纏まりないですがこれにて。



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