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「あ、幸村さん。丁度良かった。お電話ですよ。」
「……俺に?」

時計の針はどちらも大体12時を指していて、こんな時間に電話してくるなんてよっぽどの暇人かあるいは緊急なのだろう。と言うか俺が起きてるかも怪しいじゃないか。

疑問を持ちつつも看護師さんから受話器を受け取り耳に寄せる。

「もしもし…?」
『幸村か…?』
「……真田?」

受話器から聞こえたのは聞き慣れた低い声。声色から急ぎの用ではない事は分かる。だとしたら前者か、と思うも多分それはない。真田は暇になったとしてもこんな時間に起きてるかも分からない相手に、しかも病院に電話してくるような常識外れな人間ではない。常識外れな部分もあるがそこまでだとは思わない。いや、そうでないと思わせてくれ。

『すまない。起こしたか?』
「いや、たまたま起きてただけだよ。」

受付のカウンターに肘をついて体重を掛ける。静かな院内に思う以上に響く自分の声に出来るだけ他の人への迷惑にならないようにと声を抑える。

『体調はどうだ?』
「悪くはないよ。悪かったらこんな時間に起きていられないさ。」

あぁ、そうか、と納得した声。自然と口元が緩むのを自覚する俺。心配させてはならないと思う反面心配してくれる真田の気持ちが嬉しい。

『まさかお前自身と直接話せるとは思っていなかったから飾った言葉を用意していないのだが…。』

受話器の向こうで困ったような声。構わないよ、と本題に入るであろう真田の台詞を促す。大体そんな事を気にするような仲でもないだろうに。

『おめでとう。』
「………え?」
『誕生日だろう?今日は。』

そうだっただろうか…?院内にいると曜日感覚がなくなる。手近の小さなカレンダーを見れば確かに今日は3月5日。

「……ありがとう。気付かなかったよ。今日が自分の誕生日だなんて。」
『だろうと思ってはいた。』

冗談を言うような口調で笑われる。でもその笑いも心地良いもの。

『来年は、直接言わせて貰いたいものだな。』
「ふふ……努力するよ。」

それは真田なりの励ましの言葉。来年も祝ってくれるという約束でもある。だから俺も悲観的にはならない。その前に真田の誕生日祝わなきゃな……、と呟いた声はしっかりと真田の耳に届いているだろう、小さな笑い声が聞こえた。

『それだけだ。切るぞ?』
「……………あぁ、お休み。」
『お休み。』

言いたい言葉は言わずに電話を切る。看護師さんに軽くお礼を言って受話器を渡す。

愛してる。今は言葉にしなくても。いつか外で笑い合える日が来たら伝えよう。

そう決心しながら静かな廊下を歩いた。






HAPPY BIRTHDAY YUKIMURA
2008.03.05


初の真幸です。
男前(?)真田にしてみました(笑)真田は男前でもヘタレでもどちらも素敵だと思うのですがやはり入院中幸村前だと男前寄りになるかと…。退院後はヘタレな気がしますが(爆)
しかし、真幸もいつかは書きたいと切に思っていたので…嬉しかったです


あきゅろす。
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