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その日は朝練を始めるのに苦労した。先ずはレギュラー達が部室になかなか入る事が出来なかった為。もうひとつは不二が部活の支度をさせて貰える時間がなかった為。仕方なしに不二なしで始まる朝練に違和感を抱くものの、不二本人の承諾も得て全員がなんとか首を縦に振った。

何故こんな事になったかは分かりきっている。今日は四年に一度の不二の誕生日。イベント好きな女子たちはここぞとばかりに不二にプレゼントを渡そうと部室の前で待ち構えていたのだ。

そんな状況にいつもに増して眉間のシワが深い手塚。もちろん手塚も不二にプレゼントを用意しているのである。しかし今の状況を考えると素直に渡せるとは思えない。それでなくてもそう言った事には初で不器用な手塚の事である。しくじったら折角用意したプレゼントが無駄になると言う事さえ考えられる。
ちらりと時計を見ると既に部活終了10分前。不二は来れないか、とため息を着いたちょうどその時、タイミングを見計らったかのように不二がジャージを着て現れた。

「朝から凄かったよ。」


苦笑しながら部活を見る手塚の隣につく。やっと落ち着いた、と続けては安堵に近いため息を吐いた。手塚は口を動かそうとするも何も声を発する事なくそれを止める。するとそんな手塚の表情を受け取ったからか苦笑を漏らしながらグラウンドに向かおうとする不二。

「今からアップしても間に合わないから走ってくるね。」

手塚が止める間もなく笑顔で手を振りながら走ってゆく。言いたい言葉が言えない自分ににもどかしさを感じつつ小柄な後ろ姿を見つめて眉を潜める。
渡さねばならぬプレゼント。なれど渡す事の前に『おめでとう』さえ言えぬ自分に焦燥感を覚えながら。

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たった一言が言えぬままいつの間にか放課後。早く部活に行きたいと思いながらも生徒会の仕事がそれを許さない。窓の外を覗くと部活をしている仲間の姿。特に薄い茶髪の男子が視界に入る。冷たい窓に触れながら彼を見つめる手塚の瞳はとても切なげで…。

「……‥?」

その視線が不意に宙に浮く。ゆっくりと上がっていけば黒い雲が目につき、あぁ、と納得する。ぽつりぽつりと地面を濡らしていく水滴。少しづつ強まるそれにもしかしたら…、と言う思いを感じながら、なれば、と仕事を再開した。

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「部活、中止だって」

酷く鳴り出した雨音に紛れて手塚以外の声が室内に響く。やはり、と密かに微笑みを浮かべながらドアに目を向ける。嬉しさと反してそうか、と一言呟けば彼はゆっくり近づいてくる。

「驚かないんだね、ボクがここに来た事。」
独自の笑みを隠すように濡れた髪から水滴が落ちる。答えを返さずにしっかり髪を拭け、と素っ気なく言ってみると乾いた笑い声が上がった。

「折角知らせに来てあげたのに。」

切ないなぁ、と楽しげに笑う不二。手塚は手塚で書類に何かを書きながら高まる鼓動に気付く。どうしてこんなにも高まるのか。理由なんて分かりきった事。
握った手を机の下に隠す。

「‥……不二。」
「ん?」


暫しの沈黙。

首を傾げる不二。

俯く手塚。

聞こえるのは雨音のみ。

手塚の耳には自分の鼓動。

「……その……なんと言うか…‥」

ドクン、と大きな音を合図にゆっくりと口を開く。

「……おめでとう。」

呟くように小さな声。そんな手塚に不二はきょとんとしたような顔をするがすぐに笑顔が滲み出る。

「ありがとう…。」

噛み締めるように発した台詞を呟いては机に膝と片手をついて軽い口づけ。唇を離しても息の掛かるほど間近の顔に手塚が顔を赤らめる事にさえ愛しさを感じ頬を撫でるように手のひらで触れる。

「ホントはね、忘れられたかと思ってたんだ。…よかったよ、思い違いで。」

恥ずかしそうに目線を外す手塚に微笑みを増す不二。ふ、と手塚が何かに気づいたように顔を離して鞄を漁りだす。その間不思議そうな顔をして机にしっかりと腰かける。

「……………。」
「…………?」

無言のまま出された紙袋に疑問を持つも素直に受け取る不二。少ししてあぁ、と納得すれば紙袋を丁寧に開け中を確認する。

「………ストラップ?」

中には雪の結晶のついた飾り気のないストラップ。銀のそれは何処かで見た気のするような…。黙ったままの手塚に小さく唸って考えてはぽん、と手を叩いて宙に指を立てる。

「手塚の携帯!」

その言葉とほぼ同時に顔を赤くしては俯いた顔をさらに隠すように背ける。

「おそろいか……ありがとう」

そんな手塚の表情を汲み取るように髪の上に口づける不二。
空から降る雪が積もるように、恋心も二人の心に降り積もる。決して溶けぬ雪のように。

外は豪雨。休日の部活は中止になりそうです。





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2008.02.29

HAPPY BIRTHDAY SYUSUKE FUJI





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