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免疫なんてない



「すみませーん、ゴリラ届けに来ましたぁ」


良く晴れた昼下がり、ここ、真選組屯所の前に似つかわしくない間抜けな声が響いた。
閉ざされた門の前には銀髪の男と日傘を差した少女。
男の手は意識のない“ゴリラ”の襟元を掴んでいた。
端から見たら異様な状態だ。
何しろ意識のある二人の目は据わっているから尚更だ。


「反応なし、か。…神楽」

「了解ネ」


男、坂田銀時に呼ばれた少女、神楽は腰を落とし構えの姿勢をとる。
すぅ、と息を吸ったかと思うと勢いよく地面を蹴った。


「…ほぁちゃあぁぁああ!!」


次の瞬間バキバキと盛大な音が辺りに響いた。
と同時に砕け散る門。
回りには神楽の蹴りによってただの木片となった可哀想な破片たちが散らばっている。
それを満足げに眺めると、神楽はくるりと後ろを振り返った。


「ボス、任務完了しましたアル!」

「よくやった少尉」

「よくやったじゃねえぇええっ!!!」

「「…あ」」


騒動に気付いたのだろう、巻き上がった砂埃の奥から真選組副長、土方十四郎が姿を現した。
眉間に皺を寄せ眉毛を吊り上げている形相は、流石泣く子も黙る鬼の副長だが、実はただのマヨラーである事を知っている二人は常日頃から怖じ気づくことなんか無く、寧ろ相手を嘗めているかのような態度をとっていた。
勿論今日とて例外ではない。


「テメーら何しやがる!!器物破損でしょっぴくぞ!!!」

「はぁ?職務乱用ですか?流石はチンピラ警察24時」

「そうアル!ちゃんと仕事するネ税金泥棒が!」

「んだとォオ!!!」


土方は右手を真剣に添えた。
いつも開いている瞳孔がいつも以上に開く。
だが、前にも述べた通り、そんなことで動揺する二人ではない。


「出てこないそっちが悪いんじゃね?」

「すみませーんって銀ちゃん言ったヨ!」


果たしてどちらが上の立場なのだろうかと疑いたくなるような態度に、土方の額に青筋が浮かぶ。
が、彼らに何を言っても無駄だと分かっている土方は、ここでこれ以上言い返すことは諦めた。


「…ってか見張りはどーしたんだ、オイ山崎!!」

「…はいっ!…ってあれ?どうしたんですか副長。それに万事屋の旦那にチャイナさんまで」

「どーしたはこっちの台詞だ!仕事サボって何処ほっつき歩いてやがった!!」

「いや、ちょっとラケットの具合が」

「山崎ィィイイ!!!!」


走り去る二人を無言で見つめていた二人の目は尚も据わっていた。
コイツらが幕臣だっていうから世も末だ。
ってゆーか自分たちはいつまでこうしてなければならないのだろう。
先程から話が一向に進まないではないか。
そう思うと段々イライラしてくる。

あーあ、こんなことなら長谷川さんにでも集ってパフェ奢ってもらうんだった。

銀時は溜め息を吐くとゴリラを掴んでいる右手に力を入れる。
そのまま足を踏ん張り歯を喰い縛ると、男を勢いよく門の中に投げ入れた。
力一杯投げた為か、大きな身体は2、3バウンドしながら回転し、最後には植え込みの木に激突して止まった。
上下反対というなんとも惨めな姿だ。


「………よし」

「…よしじゃねーですよ旦那。折角気持ちよく昼寝してたってのに目が覚めちまったや」


聞き覚えのある声がした方を見ると、木の影から伸びる手足。
丁度此方からは死角になっている場所に一番隊隊長、沖田総悟の姿があった。
彼は愛用のアイマスクを外すと、声を出して伸びをした。


「あれ?総一郎君じゃん」

「総悟でさァ旦那」


ひょっこりと顔を出したかと思うと、めんどくさそうに此方に近付いてくる。


「旦那ァ、何考えてんですか。俺があそこで休憩してんの分かっててゴリラ投げ付けたんだろィ。酷いお人だ。折角の貴重な休み時間だってのに」

「いやいや、酷いのはそっちだろ?其処に転がってるの、お宅の上司だよね?」


そう言って哀れなゴリラをチラリと見た。
全くもって酷い扱いだ。
いや、腹が立って八つ当たりしたのは紛れもなく自分なのだが、そこは敢えてスルーしておこう。


「上司だろうがゴリラだろうが関係ねーでさァ」

「あ〜、そうなの?…うん、なんかゴメンねぇ」


いつもとはいえ報われない近藤の存在に、銀時は同情の目を向けながらやる気無く謝った。
すると、遠くの方から足音が近付いてきた。


「総悟ォオ!!」


先程山崎を追いかけて去っていった土方だ。
近くに山崎の姿がないということは………、うん、御愁傷様。


「テメー居なくなったと思ったらそんなとこでサボってやがったのかっ!!!…って、近藤さん?!!」

「気付くの遅っ」


近藤の存在にやっと気付いた土方が、慌てて駆け寄っていった。
完全に意識のない上司を揺さぶっているが、起きる気配は全くない。
まぁ、妙にあんな事をされた上、力一杯投げたのだから当たり前だが。


「ゴリラも可哀想なポジティブネ」

「ポジションな。……いや確かにポジティブではあるけど」


銀時と神楽は呆れたようにそれを見守っていた。
近くにいる沖田も哀れな目を……いや、あれは人を見下す目だ。
その表情は何やら楽しそうにも見える。
銀時はそこに腹黒さを垣間見た気がしたが、ここは突っ込まないでおくことにした。
沖田を敵に回したら何されるか分かったもんじゃない。
苛められるのは土方だけで十分だ。


「オイ!テメーらどういうつもりだ!?」


近藤を、呼び出した部下に任せた土方が立ち上がり此方を睨んできた。
銀時は、自分たちが悪者扱いされている言動に納得がいかず、ピクッと眉を動かした。


「はぁ?俺たちゃストーカーゴリラを親切に届けに来てやっただけだよ」

「そうヨ!感謝するヨロシ!」


神楽がふんぞり返って土方を指差す。
だが男はそれに動じることなく取り出した煙草に火をつけると、説明しろと目線を寄越してくる。
銀時は一々めんどくさいと思いながらも、このままでは埒が明かないと仕方なく口を開いた。


「いつもの如く、怪力女にストーカーしてたゴリラが返り討ちにあったんだよ」

「で、なんでテメーらが届けに来た?」

「何だヨ!私たちのこと疑ってるアルカ!?別に何も企んでないネ!最近貧乏だからゴリラ届ければ何か貰えるかもとか考えてるとでも思ったのカヨ!!」

「めちゃくちゃ企んでるじゃねーかっ!!!」


銀時はやれやれ、と溜め息を吐くと、憤慨している土方に近付き肩に腕を乗せた。


「まぁまぁ落ち着きなさいよ土方君。何も謝礼金とかじゃなくて食料でいいからさぁ」

「んでだよっ!!」

「銀ちゃーん、私蟹が食べたいネ」

「だってよパパ」

「誰がパパだっ!!!」

「土方さん、あんたいつも仕事中に突然いなくなると思ってたら、まさか隠し子がいたなんて…」

「そりゃテメーだろっ!!!」

「ふふんっ、サドに隠し子がいたアルカ」


土方の言葉に神楽はニタリと笑った。
その視線の先にいた沖田は眉を潜める。

あ〜あ、俺は知らないからな。

二人の雲行きが怪しくなったことに、銀時はまた面倒が増えると頭を掻いた。


「…なんでィチャイナ」

「青臭い餓鬼がいっちょまえに乳繰り合うなんて10年早いネ」

「胸もろくにない餓鬼にゃ関係ねーだろィ」

「んだとドSゥウ!!」

「やんのかィ?」

「上等アル!クリリンの敵ィイイ!!」


いやいや、クリリン関係ないからね、ってか喧嘩売ったのは神楽ちゃんだからね。
と、一応心の中で突っ込んでおいた。
口に出すと此方まで被害が及ぶからだ。
子供の喧嘩は子供だけでどうぞってやつだ。
喧嘩をおっぱじめた二人を温かい目(?)で見守ることに決めた銀時は、ふと隣に立つ土方をチラリと見た。
先程とはうって変わり冷静になった男は、ポケットから新しい煙草を取り出すと口に加え火をつける。
どうやら自分たちは同じ考えらしい。

さぁーて、どうしたもんかね。

銀時は腕を組んだ。
食料を求めてわざわざゴリラを届けに来たのだが、どうやら、というかやっぱり何も貰えそうにない。
まぁ、最初から期待などしていないが。

それに、神楽がつまんなそうにしてたからな…

聞いた話によると、真選組は攘夷志士の捕縛とかなんとかで忙しかったらしい。
その為か、最近彼らの姿を見なくなった。
銀時は特に気にはならなかったが、神楽は違ったらしい。
いつも道端で会う度に沖田と喧嘩をしていた神楽だ。
ここのところ、つまんないアルが口癖になっていた。

なんやかんや言って、いい遊び中間、ってね。

沖田くんも大変だな、と銀時は彼らの喧嘩を眺めた。


「お前ェエ!レディになんてこと言うネ!!」

「はっ!事実を言ったまででィ!!」

「ムキィイイ!!見てるネ!十年後にはボンキュッボンアル!!!」


激しい攻防戦を繰り広げている二人に、銀時は苦笑した。


「喧嘩するほど仲がいいってヤツかね…」

「あ゛あ?」

「いやいや、うちの神楽ちゃん、お宅の沖田君のこと結構気に入ってるみたいでねぇ」

「…ふん、目的はそれか」

「まぁ、そんなとこだ」


土方はフーと煙を吐くと、近くの縁側に腰掛けた。
銀時もつられて腰を下ろす。


「総悟もチャイナのこと好敵手って言ってたぞ」

「マジでか」

「ああ。…だが、彼奴はあれで」

「何するネ!!!」


そこまで言ったときだった。
突然神楽が大声を上げたのだ。
会話に集中していた二人が前に意識を戻すと、沖田が神楽を壁に押さえ付けているところだった。
神楽はなんとか逃れようと足掻いているが、手足を拘束されているようで抜け出せないでいる。


「離せヨ…!!」

「なんでィ、女扱いしろって言ったのはそっちだろィ……なぁ、神楽」


沖田が怪しく笑い、耳元で囁いた。
一瞬言葉を理解できなかったらしいが、次の瞬間みるみり赤くなっていく神楽。
銀時もその光景に唖然とする。
そんな様子を見た土方が、先程の言葉を続けた。


「…総悟はマジでドSだから気を付けろよ、って言いたかったんだが」


どうやら一足遅かったらしい。
土方は本日何本目になるであろう煙草に火をつけた。


「…っ、私を呼び捨てにしていいのはパピーと銀ちゃんだけネ!!!」

「…だとよ」


ハッと我に返った銀時は少し複雑そうに苦笑した。


「銀さんモテモテで困るわー」

「言ってろ」

「なんですかー、僻み?」

「んなわけあるか」

「銀ちゃーん!!!」

「うをっ!?」


ドンっ、と身体に衝撃が走った。
やっと沖田の拘束を逃れた神楽が勢いよく銀時に抱き着いていたのだ。
腰の辺りに腕を回す形で鳩尾付近に突進される。
思わず後ろに倒れそうになったが、腕を突っぱねなんとか耐えた。


「彼奴が苛めるネ!」

「あー…、よしよし」


銀時は愛しそうに神楽の頭を撫でた。
すると、神楽も更に腕に力を入れる。


「銀ちゃ〜ん」

「わぁーったから、ほら、帰るぞ。もう気は済んだんだろ?」

「…うん。でも複雑な男心ネ」

「乙女心な」


ふと視線を感じ顔を上げると、不服そうに此方を見つめている沖田の姿が。

あらあら、彼方さんもいろいろありそうだな。

銀時はそれを軽く受け流すと、神楽を立たせて土方に背を向け右手を上げた。


「じゃあな、けーるわ。ゴリラに宜しく」

「ああ」

「もう二度と近付くな、だとよ」

「無理だろ」

「オイオイ、上司の躾ぐらいちゃんとしとけよ」

「そうヨ!ちゃんとバナナ与えないから欲求不満になるネ!」

「んでだよ!!」


先程までの虚勢は何処へやら、いつもの調子に戻った神楽に銀時はフッと笑った。


「銀ちゃん、早く帰るアル!レディース4が始まるネ!」

「おお」


門の前まで来ると、ふと神楽が立ち止まった。


「サド!」

「…なんでィ」

「絶対リベンジしてやるから覚悟してるネ!」


そう言ってくるりと背を向け銀時を引っ張るように姿を消した神楽。


「挑むところでィ」


沖田が小さくそう呟いたのは、しかし土方にはしっかりと聞こえていた。

後日、歌舞伎町の真ん中で盛大なリベンジが行われたのは、また別の話である。




END。
(2009/11/05)
――――――――――

あとがき。

いやー、難しいですね、沖田と神楽。
中々話が纏まらない、というか銀ちゃんと土方が話をずらしてしまうので、予定よりも長くなってしまいました。
文章力の無さが滲み出ていますが、こんな4人が好きです!
沖田→神楽→銀時みたいな?
出来たらまたチャレンジしたいですね。


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