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薬物には気をつけろ2



「土方さーん、土方さんいやすかァー」


ドンドン、ドンドンドンとリズム良く木材を叩く音が響く。


「土方さーん、いるんだろィ土方さーん」


多くの隊士が見廻り等で出払っている平日の昼下がり。
普段なら静かな屯所に響くのは、余りにも似つかわしくない音だ。


「土方さーん、土方コノヤロー、早く出てこいや土方マヨラーさーん」


ドンドンドン、ドンドンドンドン―――


「土かt」

「うるせェエエーっ!!!!」


突然大声とともに厠の入口のドアが外から中へと蹴破られた。
その勢いで外れた可哀想なドアがバタン、と音を立て埃を巻き上げながら床へと倒れる。
それを特に興味無さそうに目で追っていた沖田は、自分の左手に現れた土方の姿に、今まで叩いていた一番手前の個室のドアから手を離した。


「なんでィそっちにいたのかよ。いないならそう言ってくだせェ」

「出来るか!!!ってか何で厠なんだよ!!」

「いやぁ、俺ァてっきり個室で息子と虚しい運動をしているのかと」

「するかァアアっ!!!」


硝子がガタガタいいそうな大声に、沖田は土方を嫌そうにチラリと見上げると、迷惑だとばかりに両手で耳を塞ぎ肩を竦めた。


「…うるせぇやィ土方コノヤロー、業務妨害で訴えまさァ」

「その言葉、そっくりそのままテメェに返すわ!」

「酷ぇお人だ、今度は冤罪ときた」

「フン、勝手に言ってろ」


おや、と沖田は土方を見上げた。
いつもなら更に言い返してくる男が、今日は此方の挑発に乗ってくるどころか言い合いを早々に打ち切り、近くの壁に背を預け懐から取り出した煙草に火をつける、という始末だ。
これには流石の沖田も戦意を削がれたらしく、つまらなそうに腕を組んだ。


「…チッ」

「チじゃねぇ、報告があんだろうが」


その言葉に、沖田は苦虫を潰したような顔をした。


「なんだよ知ってたのかよマヨ方さん」

「土方だ。…昨日調査中の山崎から連絡があった。詳しくは明日報告する、ってな」

「あのヤロー、チクりやがったな」


覚えとけよ、とか何とかブツブツ言い出した目の据わった沖田を見ながら、土方は、山崎も大変だな、なんてまるで他人事の様に同情した。
まぁ、確かに他人事ではある。
だが山崎が、いつも土方の不機嫌を理由に理不尽な精神的苦痛を受けているなんてことは、当の本人は一切頭にはない。
こういう点では、この二人は大して変わりないのだ。


「…で、どうなんだ」


土方は愛用のマヨネーズ型をした携帯灰皿で煙草を消すと、やや強い光の射し込む窓から空を見上げた。


「どうって……、山崎からどこまで聞いたんでィ」


「薬物の名前、使用方法、効果、それから天人との取り引きの中心人物である攘夷志士のこと…、くらいだ」


土方はポケットから新しい煙草を取り出すと口に加え、愛用の、これまたマヨネーズ型をしたライターで火をつけた。


「村谷鉄蔵のことですねィ」


幾分か声のトーンを落とした沖田が伺うように見つめた。
土方はそれに応えず視線を逸らしたまま煙を吐くと深く呼吸した。


「ああ、俺も簡単に調べてみたんだが、どうやら後期の攘夷戦争に参加していたらしい。奴ァ名ばかりじゃなく歴とした攘夷志士ってことだ」

「っ!?………成る程、そういう訳ですかィ。それで彼奴の名が上がったと」


驚きから一転、喜びとも恐怖とも取れるような表情でニヤリと笑った沖田に、土方は眉を寄せ強い眼差しを向けた。


「……誰だ」


先程までの空間は消え、重い空気が流れる。
沖田は昂る感情を抑えながらゆっくりと顔を上げ視線を合わせた。


「過激派浪士の中でも最狂と謳われる男でさァ」

「高杉か…!」


土方は僅かに目を見開き、それから鋭い視線を沖田に送った。


「ええ、ですがその名を耳にしただけで、実際何処まで絡んできてるかは不明でさァ」

「耳にしただけでも十分だ。奴は必ずこの件に深く絡んでやがる」

「確かに、ちょっとのことじゃぁそう名の上がらない、食えない野郎でさァ」

「近藤さんには…?」

「山崎の定期の調査報告の時に纏めて言うつもりですけど」

「高杉の件も、な。確証はないが、たぶん、ほぼ確定で間違いないだろう」

「なら、そっちの方も調べさせときますかィ?」

「…ああ。だが、慎重にいけよ」

「わかってまさァ」


興奮を隠しきれない目でそう言い残して、沖田は厠から姿を消した。
それを視界の端に捉えながら、土方はゆっくりと天井に視線を送り、目を細めた。


「天人との取引に、高杉…ねぇ。今回の星はそう容易くはないぜ、近藤さんよ」


フーッと息を吐き出し一度目を閉じると、自室にもどる為に足を動かした。


「…ってか、このドアどうすんだよっ!!おい総悟っ!!テメェそっちより先にこっち直しやがれっ!!!」


響く怒鳴り声を背に、遠くの方でクスリと鼻で笑う音が僅かに聞こえた。




END。
(2012/03/18)
――――――――――

あとがき。

祝、銀魂サイトを移動、合併してからの、初更新!
かなり間が空きました&設定が行方不明だから手さぐり…っていう…
短いですけど、いったん区切ります。


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