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桃太郎

「こんな時間に何をしていたんですか?」
「……お前には関係ないだろう」

男が会話を続けようとしていたので、桃太郎は立ち上がりそこから去ろうとした。

「待ってください」

だが腕を掴まれとめられる。

「夜に歩き回るのは危ないですよ。今はもう、たとえ村の中だって安全ではないんです。鬼が出るから」
「鬼…?」
「ええ、この村の近くに森があります。そこに鬼が住んでおり、時々悪さをしに来るとか…その鬼は子どもの姿をしているそうですけどね。甘く見ないほうが…」
「だから何だ! 私はもう帰るんだ。放せ!」

腕を振り払うと男は困ったように笑った。

「あの、お名前を尋ねてもよろしいですか?」
「は? 何でお前に? だいたい名前を聞くなら、まず自分が先に名乗るのが礼儀というものだろう!」

桃太郎に礼儀を教えられては終わりである。

「ああ、そうですね。私は雉流(ちりゅう)と申します。色んな町を渡り歩いて、そうですね、地域による特性を調べるのが趣味なんです。…ではあなたのお名前を教えていただけますか?」

「ふん…、誰も教えるとは言っていない」

桃太郎はキョトンとした雉流の顔を見て、イライラしていた気持ちを晴らした。

その時に気がついたが、雉流の周りで光っていたものの正体は風で舞っていた彼自身の長い髪だったらしい。
桃太郎よりも幾分か濃い銀髪が光を放っていたのだ。

(何てうっとおしそうな髪だ)

もう用は無い、とばかりに桃太郎は公園を去る。


「…に……」

歩きだしても今度は止められないようだ。
ただ背後で雉流が何か声を発していたが、桃太郎にはよく聞き取れなかった。

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