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桃太郎

「…」

休み休みを繰り返しながら山をおり始め、もう5時間程か。辺りはすっかり暗くなっていた。
空には輝かんばかりの星空が。だがそんなものは桃太郎にとって、何の慰めにもならなかった。


「くそっ! ココはどこだ!?」

桃太郎は一人で山からおりたことがない。
そう、迷子になっていた。
何もかもが上手くいかない!と苛立っていたその時、

ドン

「痛てぇ―」
「………は?」
「おー痛ぇ〜おいおい、腕折れちまったよ。どうしてくれんだ?」

桃太郎はガラの悪い男にからまれた。

「なっ! ちょっとぶつかっただけだろう!」
「うるせぇ、慰謝料はらいやがれ!」

バキッ

「!?」
「さっさと金出せよ」
「………痛い。」
「あ?」
「痛い…痛いっ!!」
「殴ったんだから痛いに決まってんだろ」
「痛いぃぃ―死ぬぅうう―!!」


殴られた頬をおさえながらブルブルと震え、目に涙なんか溜め叫ぶ桃太郎は、とても30近くの男には見えない。
桃太郎ご自慢の、少し襟足の伸びた銀髪の髪も乱れてしまっている。

この男、そこそこ綺麗な顔立ちをしているのだが痛みにめっぽう弱かったりする。
おじいさん達に大切に育てられ、当然殴られたことなどなく、また外にもあまり出ないヒッキーなので怪我もほとんどしたことがない。
つまり甘やかされ、安全に生きてきた桃太郎は、プライドばかり高くて自分勝手で痛いのが怖くて筋肉もない力も無い弱い弱すぎる、最低の男になってしまっていた。


「なんだぁ…? 気持ち悪ぃ奴だな。もっかい殴られたくなかったらさっさと金だせよ」
「わ、わ、私は、きび団子しか、持って、ないっ!」
「はぁ? なめてんじゃねぇぞコラ!! 殴んぞ!」
「なっ! 嘘じゃない! ホントにこれしか……っ!!」

きび団子の入った袋の入り口をあけ、男にそれを見せる。

「…これのどこがきび団子だよ。お前マジでなめてんだろ」

男の言い分はもっともだ。
袋に入った“きび団子”は誰がどう見てもただの石ころにしか見えないからである。




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