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桃太郎
11
「うぅ〜」
「てめぇ! やっと起きやがったか!!」

怒鳴る重低音に眉を顰めて桃太郎は目を覚ました。
2、3度瞬きをし、窓から漏れ入る光と室内を見て、頭の上に疑問符を浮かべる。

「…?」
「『?』 じゃね―よコノ野郎!」
「…なんで私は宿にいるんだ?」
「あ―? お前が往来で寝てたから俺が運んでやったんだろ」
「え」
「お前夢遊病持ちなのかぁ? 迷惑な奴だな」

猿虎はため息を吐いて、布団の上で上半身だけをおこした桃太郎を見下ろした。その顔は嘘を言っているようには見えない、心底呆れた顔していた。

(夢だったのか? いや…そんなはずは…)

首元をさする。
絞められたはずの首に痛みはない。

「…どうした? 首になんかあるのか?」
「いや…」


首を傾げていると猿虎に手をとられた。

「つか、そういえば…お前、手大丈夫か?」

手のひらをまじまじと見られ、今更心配してくる猿虎に怒りが湧いて桃太郎は手を払った。

「な、何を今更…!」

「あ、何だ。殆ど痕も残ってねぇ―じゃん。お前大袈裟なんだよ。」

「何言ってる! そうとう痛かったんだぞ!!」
「はいはい。あ、そうそう、お前はやく宿屋代払えよ」
「は?」
「俺無一文だし。」
「わ、私もきび団子しかないと言…」
「なに―!! お前良いとこの坊ちゃんじゃねぇのかよ!?」
「まぁ確かに私の気品は隠しようがないから貴様がそう感じるのも仕方な…」
「黙れ!」
ボゴ
「ぐへっ!」
「逃げるぞ」
「は、へ?」
「見つかる前に逃げるんだよ、はやくしろ! ……………ああもう!!」

猿虎は焦れて桃太郎を肩に担ぎひょいと窓から外に出た。
だがその騒ぎに宿屋の主人が駆けつけた。

「あ、お客さん! お勘定はっ!?」
「ちっ、見つかったか。…オイ! しっかり掴まってろよ!」
「うわ、お、おろせっ!」




「ったく…面倒な奴と一緒に旅することになちまったぜ」

(私は頼んでない!!)

桃太郎達は逃げるように町を出ていった。

***

すたこらと村から、見渡す限りの草原の中に出た。

「ここから北の方へ行くとでかい町がある。そこであのきび団子売れば結構な額になるだろ」
「北って…どれぐらい…」
「まぁ〜…今日は寝れねぇなぁ」
「…」

(また歩くのか…。)

桃太郎は猿虎の言葉にゲンナリしながら、腰にかけているはずのきび団子に手をやった。
そして青ざめる。

(無い…!?)


慌てて腰を探る桃太郎を見て、猿虎も青ざめた。


「お前…まさか……無くしたとか言うなよ…」

「いやっ、確かにここに…!」

(まさか、…)

鬼を退けるために投げ付けたあの時、あの山に落としたまま帰ってきてしまったのではないか。

(やはり夢じゃなかったのか…)




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