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短編
永久の呟き
 人魚の肉を食べた女の話を知っているだろうか。

 彼女は年をとることなく、長い時を生きたという。

 彼女は幸せか?

 お話の続きでは、彼女は孤独に耐えられずに一人山に籠もったのだという。

 え?おかしいって?

「どこがおかしいの?」

「孤独に耐えられず一人山に籠もるってとこ。そっちのが一人じゃん」

 膝の上で頭をゴロゴロさせる少年に、彼女は優しげな目を細めて、その問いに答えた。

「変なものか。大勢の中の孤独に彼女は耐えられなかったのだよ。一人でいれば、他の人が目に入らなければ、人を求めることはないと考えたんだろうね」

「そういうもん?」

「どうせおいて行かれるのなら、受け入れられないのなら、初めからない方がよかったのだろうね」

「へぇ…」

 よくわからないといったような表情の少年を、仕方がないと頭を撫でた。

「こんなことは、わからない方が幸せさ」

「お前はわかるのか?」

「わかるさ、私とてお前の先祖に見つけられるまでは同じような状態だったしな」

 ころころと女は笑う。先祖と言っても少年は顔も知らない名前すらうろ覚えの存在だ。

 この家にきて百をとうの昔に過ぎた彼女は、それよりもっと前に時を止めた体をなぞった。

「食わず飲まずでもこの体は朽ちなかった。生きることはすでに私の中で死と同種だった。何もないのだよ。終わりのないものに意味はない。人は人とあらねば人にすらなれないんだ」

 そういうものかと少年は女を見上げた。

 考えてみたがわからずに、そのまま襲ってきた眠気に身を任せてみる。

 だから、女の呟きを聞くことはなかった。

「でも…だからこそ、一度人に執着すれば手放すのは困難なのだよ」



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あきゅろす。
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