短編
レクイエム
歌が響く。
テロリストは鎮圧され、軍隊どもが押し寄せた名残が街のあちこちにある中で。
ふと耳を澄ませてみた。
動く影は少し前に比べて圧倒的に減少していた。
戦乱の世の中だ。
とてもなんで自分たちが、などと悲劇ぶった台詞を許される状態ではない。
だが、
「………………知ったことか」
知ったことか。思想など。
知ったことか。正義など。
振りかざす旗は違えども、どちらも自分のことしか見えていない。
あいつらの目の端にでも、道端に蹲る頭の吹き飛ばされた子どもの顔が映っていたのか。
あいつらの耳に、目の前で子どもを失った親の慟哭が届いたのか。
その一瞬前までは、確かに生きていたのに。
歌が響く。
誰も不思議と顔をあげようとしない。
聞こえないのか。
目を凝らしてみようにも、最早霞んで自分の指さえ見えない。
ああ、違った。
先の戦闘で吹き飛ばされたのだった。
なくした腕は、不思議と痛みを訴えない。大きく開いたはずの風穴もだ。
目が、霞む。
歌が、響く。
ひどく寒くなって、少しだけ身を縮めた。
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