一睡の夢
3
風はいい。それも嵐のような荒々しいものではなく、時折髪をさらうような音のない風が好きだ。
喧しいのは苦手だ。ひどく自分の中まで侵されているようで不快になる。風とはいえ真逆だ。
「だからお前は不愉快だよ、世羅」
手の中の万華鏡をカラカラと回しながらぽつりと呟いた。奥が透明の、向こうの景色が見えるものだ。土産の安物だがなかなか気に入っていた。
目に映るのは少し灰色がかった雲と青い空。そして不愉快と面と向かって言われ、米神を痙攣させる男が一人。
「うるっせーよ!悪かったなあ、喧しくて!」
「俺はうるさくねーよ、うるさいのはお前だ馬鹿世羅。とっとと話の本題に入れ」
そう言い返されて不服と顔に書いてあるまま、世羅は舌打ちをして大きなため息をついた。
「…B135−22地区で仕事の依頼だ」
「世羅、俺はお前らじゃないから地区番号で言われてもわからねえって何度言やぁわかるんだよ」
「まだ覚えてないのかよ!」
もはや何年来の付き合いだというのに一向に覚える気が無いことにあきれるばかりだ。こんなやりとりも、もう何度目のことか。
「例の開かずの踏切…こっちなら覚えてるか?」
「…三年前のか?」
「そっちは覚えてるんだな…。そーだよ。そこで仕事だ。期限は十日以内。それ以上はもたない。あとはいつも通り、終わったら迎えにいく」
「詳細は?」
最低限の事務事項だけを告げた世羅に不服そうに眉を寄せる。
「必要か?残念ながらこれ以上はなくても仕事に差し支えが無いということで俺からは教えられない。気になるなら自分で調べるんだな。守秘義務ってやつだよ」
どやぁと効果音がつきそうな顔で言われ、少々…いやかなりイラついた。
立ち上がり、荷物を持ち上げるとともにその顔に掌底をぶち込んだ。
「いってぇぇ!おま、ひっでぇ!お前みたいな乱暴者、仕事じゃなけりゃぜってー組まねえからな!」
世羅の叫びに耳を傾けずに、というか完璧に無視して部屋を出ていく。
「聞いてんのかよ!サナギ!」
世羅の絶叫に、サナギはしかしそ知らぬふりをして出ていくのだった。
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