一睡の夢
2
頭の中のイメージを追い払うように目の前の線路をにらみつけた。
「はやく開いてはやく開いてはやく…」
しかしその念仏のようなつぶやきをあざ笑うかのように、地元ではもはや伝説級の開かずの踏切は電車の到来を告げない。
耳障りなカンカンカンという音だけが辺りに広がる。
「はやくはやく…」
暗闇に浮かぶ踏切の光は余計に不安を増長させる。
意味もなく泣きそうになったとき、踏切の音に何か別の音が混ざった。
(……………)
「え?」
(………………………………………・っ)
奥歯がガチガチと鳴り出した。指先が自然と震え、急激に冷えていく。
ないないあるわけない。ただの聞き間違い。
(…………………………・……………………………て……)
「ぃや………っ」
あるわけないあるわけないただのききまちがいよ。おちつかなきゃおちつかなきゃ。
一切の邪念を払うかのように目の前をにらみつける目つきを険しくする。
目を閉じてしまえば、さらに恐怖に押しつぶされそうでできなかったのだ。
無音と矛盾したガサガサと耳障りな音が大きくなる。
(…………………………………い…で…………!)
「ひっ…!」
もはや自分を誤魔化せない。それは明らかに意図を持った人の声。
誰かの?誰の?誰もいないのに?
……………本当に?
(見ないで!)
ひときわ大きく聞こえた声と共に目の前に突如として腕が現れて、どんと少女の胸元を押した。
「ぃやっ……!」
思わずしりもちをついたその目の前を、明るい光と轟音を連れた電車が通り過ぎた。
しかし少女の目には、それは入らない。
それよりも、少女の意識を占領していたのは、
「う…で?腕?うそ、え?」
呆然とつぶやき、押された自分の胸を触る。押された、確かに。まだ感触だってある。
しかし少女を驚愕させていたのは、そんなことではない。
「腕…だけ?嘘………。いや、ぃやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
そう、先ほどの腕には、その先がなかった。
少女の絶叫だけが、夜闇に響いた。
もう、踏切の音はしない。
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