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一睡の夢
1

 すっかり暗くなった辺りに、自然と少女の足も早まる。
 誰もいない道を一人歩くのは、思ったよりもカラオケを楽しんでしまったことと、早くなった日の入りが原因だった。
 
 夏場ならまだ明るく、人も疎らながらいるだろう。しかし、少し肌寒くなったこの季節では、もはや夜と言っても過言ではなかった。

「遅くなっちゃったな…」

 何かを誤魔化すように独り言をもらす。友達は皆、一駅前だった。

 ぼんやりとした街灯に、無駄に不安を煽られる。

「もう…皆があんな話するから」

 強がりにしては弱々しく、睨むように前を見る。

 歩を進めれば徐々に近づく線路と踏切。

 鈍い音と共に運悪く踏切が下りてきた。

 縋るように少女は鞄を握りしめる。

 頭の中を反芻するのは、友人たちの他愛無い会話。

 そう、他愛の無い会話。

 友人たちにとって、そして先ほどまでの少女にとっては、だが。



『ねぇねぇ知ってる?線路に出る女の子の霊の話』

 リアルに思い出した言葉に、咄嗟に頭を振って追い出そうとする。

 しかし、自覚すればするほどその声ははっきりしていく。

『三年くらい前にね、あの踏切で事故があったのは知ってる?ほら、開かずの踏切』

 開かずの踏切。

 それはまさに目の前のこれのことだ。

 電車の本数とタイミングの関係でなかなか開かないので、誰が言い出したかは定かではないがそう呼ばれていた。

『一人の女子高生がね、踏切の故障と、ちょうどその時霧がかかっていたせいで電車に轢かれたんだって。互いに直前まで気づかなくてその子は頑張って逃げたんだけど結局は轢かれちゃったんだって』

 知ってる。だから言わないで。

 そんな少女の願いも空しく、記憶の中の友人は神妙でありながらどこか面白がっている表情で続ける。

 所詮は対岸の火事。他人事だ。

 非情とも言えるだろうが、確実に面白がっていた。

『でね、その子が轢かれた腕がね、どうしても見つからないんだって。飛ばされていっちゃったのか、潰されちゃったのか』

 想像して、ぞっとする。

 そうだ、よく考えてみれば、此処は現場なのだ。

 見つかっていない腕が、そこらの草むらから覗いている。そんな気がしてならない。


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