28-2
顔を洗うために、ルルーシュと空はバスルームへと向かった。
目的地に入るなり、聞こえたのは流れ続ける水の音。
浴室と洗面所が一体化したその空間で、水音はシャワーの音だとすぐに気づいた。
バスタブを隠すようにひかれたシャワーカーテンには女性のシルエット。
長い髪の、一人しか覚えのない人間の。
「――――わっ」
空は反射的にルルーシュを廊下へと突き飛ばす。
人の出入りに気づいたのか、カーテンの向こうの人物はシャワーを止めて顔を覗かせた。
お湯で温められて薄桃に染まった頬をしたC.C.だった。
「誰だ?
…………あぁ、おはよう空。
おまえもシャワーを浴びに来たのか?
すまない。
もう少しだけ待っててくれ」
「大丈夫だよ。
顔とか洗いに来ただけだから。
今日は珍しいね。
C.C.が朝からシャワーなんて」
今まで一緒に過ごしてきて、彼女が朝にシャワーを浴びるのを空は初めて見た。
C.C.は、自分が起きる時間はいつも寝ているイメージがあった。
「………ただの気分転換だ」
吐き気をこらえるような重い声。
「嫌な夢でも見たの?」
C.C.は何も言わない。
そばにある脱衣カゴからバスタオルを掴み、カーテンの向こうへと隠れてしまう。
嫌な夢を見たんだと察してしまう行動だった。
空はカーテンへと歩を進め、隙間に手を差し入れる。
「C.C.
手…貸して?」
驚いたのか、C.C.がこちらを向く気配を感じた。
空の行動に戸惑うように沈黙し、だけど最後には手を乗せる。
「大丈夫だよ」
空はその手を握った。
シャワーを浴びているおかげか、C.C.の手は温かい。
「夢の中は一人かもしれない。
でも起きたら一人じゃないよ。
そばにはルルーシュが寝てるし、ここにはあたしがいる。
ナナリーだっている。
だから…大丈夫だよ」
手を乗せていただけのC.C.は、空の手を握り返した。
「ああ………そうだな。
空が、いたな」
吐き気をこらえるような声ではなく、重苦しさがない穏やかな声だった。
「着替えたい。
空、廊下で待っていてほしい」
「うん、わかった」
C.C.のそれは、強がりからくるわけでもなく、一人になりたいわけでもなく、ただ着替えたいという声だった。
空はその場に留まらず廊下に出る。
出てすぐ、空は驚きに硬直する。
廊下で待っているルルーシュがスザクと話しているからだ。
廊下に出た空に気づいてスザクが笑顔を向ける。
驚きがすぐに消えない空は、スザクの元へ行くのだけで精一杯だった。
「スザク……どうしてここに?」
朝に始まる生徒会に来る時間にしては早過ぎる。
「頼まれたんだ。
空を案内してほしいって」
「案内?
誰にだ?」
ルルーシュの疑問にスザクは答えるのをためらった。
助けを求めるように空を見る。
「ルルーシュに話した?
封筒の贈り主のこと」
遠回しの言葉だが、ルルーシュも空も答えに気づいた。
「その様子だと、ルルーシュも知ってるみたいだね。
よかった。
空、一緒に来てほしい」
詳細を聞かなくても、答えはすぐに出ていた。
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