28-9
ハッと我に返ったあたしは、訂正するために首を振る。
「自分の意思で戻れるならそうなりたい。
だけどコントロールできるようになったら、きっとあたしがあたしじゃなくなる。
だからこのままでいいんです」
キセルを吸い、無言で煙りをこぼすラクシャータさんは、どこか納得がいかないような表情をしていた。
「………わかった。
だけど原因を早く掴むべきね。
ヘタしたらあなた、自分の身体に戻れなくなるわよ。
不安定なままでいればもしかしたら」
ラクシャータさんの言葉には現実を突き付けるような重みがあった。
あたしは何も言えなくなる。
自分の身体に戻れなくなるのは嫌だ。
でも、コントロールできるようになって自分を失うのはもっと嫌だ。
ラクシャータさんも沈黙している。
床に視線を落としてるのは、言葉に困っているのか考え込んでいるのか。
と、思った途端、ラクシャータさんが顔を上げてニッと笑った。
とっておきのおもちゃを見つけた子供みたいな。
「もしコントロールできてかつ、自分を失わない方法があるならどうする?」
「どうするって……あるんですか?!」
驚きで、思わず食いつくように接近する。
ラクシャータさんはあたしのそれが予想外だったのか、困ったように苦笑した。
「ある“かもしれない”ってだけよ」
「じゃあ……確実あるってわけじゃないんですね…」
そのまま床に沈む。
期待した反動が凄まじかった。
「あなた自身その力を把握してないんでしょう?
なら自分を失わずにコントロールできる方法はあるはずよ」
ラクシャータさんの言葉には説得力があった。
確かに、あたし自身全部を把握してるわけじゃない。
納得した時、ラクシャータさんが机にドンと分厚いノートを乗せた。
「この前言ってた資料。
その姿だとページめくるのは無理ね。
めくるから目を通してちょうだい」
ラクシャータさんは適当にパラパラとページをめくる。
ゆっくりとした間隔に、あたしは手を触れずに内容を読むことができた。
そして、特に気になった項目を見つける。
「“その存在は全ての国に姿を現す”?」
「あら。
い〜とこチョイスしたわね。
そこ私も掴んだって思ったところよ」
ページをめくる手を止めて、ラクシャータさんは呟いた。
「色んな国を渡り歩いて気づいたんだけど、どの国にもその存在についての言い伝えがあってね。
誰かが故意に広めているような不自然さで、隅々まで」
どの国にもってことは、ブリタニアの本国にもそういうのがあるのだろうか?
「他にも話してちょうだい。
聞きたいことは山ほどあるわ」
ラクシャータさんの質問攻めは、この部屋に訪問者が訪れるまで続いた。
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