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30-1
浮游航空艦アヴァロン。
それを所有するのはブリタニア第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアだ。
彼は今、艦内の医務室にいた。

「彼女の容態は?」

シュナイゼルが問えば、白衣を着た軍医の一人がすぐに答えた。

「一命を取り留めましたが、失血がひどいです。
右腕と左足に処置を施しましたが、意識が戻るかは…」

軍医はシュナイゼルから医療用のカプセルへと視線を移す。
中には右腕と左足が欠けている少女が横たわっていた。
黒の騎士団が退避した場所に唯一残っていた人物だ。

「全力を尽くしてほしい。
彼女は騎士団について有力な情報を握っている可能性が高いからね」
「有力な情報……ですか?」

とてもじゃないがそうは見えない。
医務室にいる4人の軍医全員が、半信半疑な眼差しを少女に向けた。

「彼女を目にしたのはこれで二度目でね。
最初は黒の騎士団が公の場に出たホテルジャック事件の時だ。
一部始終をまとめた映像に一瞬だけ出ていたのを覚えている」
「はぁ…」

軍医は感嘆のため息をこぼす。
半年も前の出来事の、しかも一瞬だけ映っていた人物をシュナイゼルが覚えているからだ。

「式根島に向かった騎士団の人間は一握りだよ。
戦力にならない人間をあのゼロが連れていくとは思えない。
彼女にも何かあると、そう考えたんだ」

シュナイゼルは微笑んでそう言った。
優美で穏やかな表情だが、内心が読めない瞳をしていた。

突如、医療用カプセルと直結している心音パネルから、緊急を知らせる警告音が大きく響く。
軍医達は飛び付くようにカプセルに向かう。
だが、シュナイゼルだけは表情を変えることなく、ゆったりした足取りで医務室を出る。
その瞳に彼女への興味は完全に失せていた。
死ぬことも想定の範囲内であるかのように。

医務室では、心音停止の音が絶え間なく響いている。
軍医は時刻を確認し、それを記録する。

「死亡を確認しました」

その言葉に、軍医の一人がカプセルの生命維持装置を停止させた。

「全力を尽くしてはみたが…さすがにこれでは…」

カプセルに横たわる少女から命の気配は少しも感じられない。
死者の顔をしていた。
軍医達はシュナイゼルへの報告のため、医務室を後にする。
静けさを取り戻した医務室で、命が消えたはずのカプセルの中で物音がした。
軍医達がもう少し長くこの場にいれば、この世には存在しない異常を目の当たりにできただろう。






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あきゅろす。
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