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哂う、イヌ
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「で、どーすんの?西倉の奴結局変えなかったじゃん」

「……」

2月第2週目の日曜日、一緒に勉強をするという名目のもと小学校からの友達でクラスは違うが同じ中学に通っている城田治が充の家に来ていた。

時々こうして一緒に勉強会を開いているのは、治も充と同じ高校を目指しているからだった。

学力レベルは同じくらいで、お互いに苦手な科目と得意な科目が正反対の為都合が良かった。

「先生達も時間がないって焦ってたみたいだな。期限もうあとちょっとだろ?まぁ、後で変更できなくもないけどさ」

問題集を解きながら笑いを含んだ声で言う治に応えることなく、充は目の前の数式に唸り声を上げた。

英語や古典などは大得意なのに、充は数学だけは苦手だった。

数学の成績が決して悪いわけではないが、すらすらと解けるほど得意でもない。

「もうさ、諦めたら?西倉が充に依存してるの、昔からじゃん。小6の時俺らが勝手に充連れて遊びに行ったらキレて暴れたこともあったよな。あー、懐かしい」

「冗談じゃない、もうほんっとにうんざりなんだよ。あいつのお守りすんの」

数式から目を離さないまま吐き捨てる充に、治は苦笑を漏らした。

「でもさー、無理だと思うよ。西倉から逃げんの」

「なんでだよ、あいつにはいっぱい友達いるじゃん。別に俺にこだわる必要ないし、あいつのは刷り込みなんだよ。俺のこと親鳥かなんかと勘違いしてる。俺はあんなでかい子供を持った覚えはない」

思わずかっとなって、顔を上げると治はくつくつと肩を震わせて笑っていた。

それにむっとして充は手元にあった消しゴムを投げつけた。

「充が思ってるのとは違うんだよ」

「はあ?」

投げつけた消しゴムは治に当たることなく床に転がり、それを拾い上げて治は笑いを収め充を見やった。

昔からどこか大人びたところがある、友達の中でも多分一番落ち着いた子供だった。

客観的に周りを見てどう動くべきなのか考えてから動くタイプで、癖はあるが賢い。言ったことはないが充は治のことは信用していた。

その治の言葉だから、充は黙って先を促した。

「西倉は、もう子供じゃないってこと」

それだけ言うと、治はそれ以上口を開くことなく問題集へと向きなおしもくもくと鉛筆を動かし始めた。

子供じゃないって、あいつは子供だろ。充は治の言葉に胸の中で反論しこっそりと溜め息を漏らす。

相変わらず充の後ばかり追いかけてくる、置いていこうとすると泣きそうな顔をして縋りつくのにどこが子供じゃないって。

いつまでも子供じみた慶が、早く大人になってくれたら、そう思っていた。






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