哂う、イヌ
2
「講習?夏休みに?」
ちゅう、と紙パックに突き刺したストローを啜りながら充は目の前で項垂れる大きな体を見やる。
弁当を平らげ机の前に散乱しているお菓子に手を伸ばし、充は可哀相にと慰めるように笑った。
甘い物好きの充の為に慶が買い込んできたスナック菓子や飴を先ほど昼飯を終えたばかりなのについつい口に運んでしまう。
「最初の6日間と、最後の6日間。…最悪」
「まぁ、仕方ないだろ。なんたって特別クラスだし」
唸るように呟く慶に苦笑を漏らし、充は飲み干した紙パックを机に転がす。
目の前では慶が片手で髪をぐしゃりとして、苛立たしげに大きな息を吐き出した。
慶のクラスは入試で上位の成績をおさめた者たちが集められたクラスで、色々な部分で充たちのクラスとは違った。
例えば試験前、充たちにはない強制的な補習が決められていて、授業が終わった後も教室に残り教師が見ている中ひたすらに勉強しなければならない時間があったり、授業の内容も若干違うらしい。
だから夏休みという長い休みに特別に講習があるのは当然のことのように思えて、充はこちらをじっと見つめる慶に諦めろと軽く声を掛けた。
「嫌だ。せっかくミツと一緒にいられると思ってたのに、学校なんて嫌だよ」
拗ねたように充に言う慶に、曖昧に笑いながら充は中身の入っていないジュースの容器を何気なく触る。
慶から目を逸らし、ざわざわとした昼休みの教室に視線を向けると友達と談笑している北川の姿があった。
「終わったら、すぐ飛んで帰ってくるから、待っててね」
ぼんやりと北川を眺めていると、聞こえた声に充はまた曖昧に笑って慶へと視線を戻した。
「あー、うん。用事が何もなかったら待っててやるから」
そう言って、紙パックを捨てようと席を立った。だがゴミ箱へと向かおうとした足は慶によって止められた。
軽く掴まれた腕を見て、それから慶を見やると、こちらを見据える眼差しの強さに知らず頬が強張った。
「用事って、何?」
充をきつく見据えたまま慶は掴んだ指先に力を込める。
それに眉を顰め、充は小さく溜め息を漏らした。
充の行動を知りたがるのは昔からで、慣れたそのやりとりに自分の腕を掴む慶の手をさりげなく外した。
「あー、急に思い立って出かけるかもしれないし。友達と会ってるかもしれないだろ?」
その答えが気にいらなかったのか慶が更に充に言い募ろうとした。だがそれは京介の声に遮られた。
「慶くーん、充にだって色々あるんだよ。俺達と出かけたり、海に行ったりー、お泊りしたり」
ふざけた口調で慶と充の会話を断ち切った京介を、慶が冷たく見やる。
充に相対する時とは全く違うその眼差しに京介は内心苦笑を漏らした。
そんな二人に小さくため息を漏らし、充はすぐ近くにあったゴミ箱へ紙パックを捨て席に戻り、机に転がったままの棒つきの飴を手に取り慶へと差し出した。
「ほら、慶の好きなメロン味」
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