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落花流水
5



榮植の寝殿に行くと、そこでとるようにと食事が用意されてあった。
村では食べることの出来ない豪華な食事に成花はずきりと胸が痛む。
今も村では、畑で取れたほんの少しの野菜と、茶色い麦飯を食べていることだろう。
白いご飯など、村にいては一生口にすることは出来ない。
申し訳なくて、心苦しくて成花は用意されてあった食事にほとんど手をつけることが出来なかった。
皿を下げにきた女官が、残っている料理に眉を顰める。
「お体の調子がお悪いのですか? 医師を呼びますか?」
それに慌てて首を振った成花は、溜息をついた女官に頭を下げた。
「ごめんなさい・・・・・・・・。 あまり、食欲がなくて」
「では、せめてこちらを召し上がって下さい。 これでは倒れられてしまいます」
女官は冷えた果物を差し出し、成花の座る椅子の隣に跪くと口元へと運んだ。
氷で冷やされた蜜柑の実は、口に含むと甘くて美味しかった。
「東の地方で取れた果物です。 これならばお口に合いますでしょう?」
東とは、成花の里の方角だ。
それを知ってか、女官はまた実を差し出した。
「東の食事は、こちらとは違って味付けも薄いと聞きます。 明日からの食事は少し味を押さえましょうね」
まるで子供に言うように優しくそういう女官を見やると、労わるような笑みを見せてくれる。
濃い味付けの料理は確かに成花にはきつい、だが食べられなかったのはそれが理由ではないと言おうとして、だが成花は頷いて女官から果物を受け取った。
女官からすれば、成花は小さな子供のようなものだ。
こうして王宮に勤めている以上、彼女は子供をもつことはない。
だからこそか、孔真宮の女官も、稜宮の女官も成花に優しかった。
「ありがとうございます・・・・・・・・・・・・」
呟いた成花に、女官が微笑む。
その時、大きな太鼓の音と共に寝所の扉が開かれた。
「何をしている」
現れた榮植は、成花とその脇に膝をついて果物の実を差し出している女官とを見て眼差しをきつくした。
慌てて成花は椅子から降り、女官と共にその場に平伏する。
「出ていけ」
榮植は女官に冷たい一瞥を投げ、成花を立ち上がらせると椅子に座り膝に抱き上げた。
女官は微かに顔を白くし、静かに寝所から出て行った。
「何をしていたんだ」
膝の上に座らせた成花とほとんど手をつけていない食事とを見比べて、榮植は眉を顰める。
「あの・・・、あまり食欲がなくて・・・・・。 それで、果物なら食べれるかと」
「ふん・・・。 食べさせてもらっていたのか、まるで赤子のようだな」
「っ・・・・・」
羞恥に身を縮ませた成花の前に、林檎が差し出される。
驚いて顔を上げると、食べろと促された。
おずおずと口を開き林檎を食べると果汁が零れ顎を伝い、それを榮植が指で拭ってくれた。
「甘いな」
果汁のついた指を舐めた榮植が微かに顔を顰める。
甘い物は嫌いなのかと見上げると、唇を塞がれた。
「やはり甘い」
唇を吸い、舌を甘く噛んで榮植は成花を抱き上げ寝台の上に降ろした。
そしてまた唇を合わせ、唾液が溢れるほどの長い接吻を交わした。
「次から食べられない時は、俺が食べさせてやろう。 他の人間の手を使うな。 もしまたあやつの手からもらっていたら、虎に喰わせてしまうぞ」
口付けが終わると何気なく言ったその言葉に、成花は息を呑んだ。
青褪めた成花の頬を撫で、榮植は冷酷な笑みを浮かべる。
「お前ではない。 先ほどの女官のことだ」
「何故・・・・そのような・・・・」
見下ろしてくる榮植があまりにも、冷たくて。
獣に喰わせてしまうという言葉はきっと嘘ではないと分かる。
怖ろしくて怯えた成花の首を片手で掴み、軽く絞めるとまた冷笑を浮かべた。
「言ったはずだ、俺は自分の物に他人の手垢がつくのは許さないと」
そんなことを言ったら、成花の世話をしてくれている女官全てが触れているではないか。
湯殿に浸かる時も、夜着を着せられる時も、髪を結われている時も。
「榮植さま・・・・どうか・・・・・」
「もう黙れ」
成花の言葉を遮り、榮植は緩く結われていた胸元の紐を解いた。
するりと成花の着ていた夜着が身体から落ちる。
白い肌には、昨夜の情事の後が色濃く残っていた。
体中に付いた榮植の証。
「まだ後ろが癒えていないからな、触れるだけだ」
大きな手が身体を滑り、余すところなく触れていく。
成花の強張った身体を解すように触れる手に、だが身を委ねることは最後まで出来なかった。




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