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熱視線
3



「っ・・・好きだったんです・・・・。 ずっと、片岡さんのことが好きだったんです。 すみません・・・・好きなんです・・・・」
涙まじりの嗚咽が、心地良く晃の耳に響く。
ゾクゾクとした愉悦が、身体の中を駆け巡った。
思いつめて泥酔した晃を無理矢理にでも襲いたくなるほど、男が自分を想っていることに強い優越感を感じる。
「すみませんでした・・・・、でも・・・、好きなんですっ。 頭がおかしくなりそうなくらい・・・、好きで好きで・・・・、どうにかなりそうなんです・・・」
大きな谷口の手が、白いシーツをぎゅっと握り締める。
その手が震えているのに、晃は満足気な笑みを浮かべた。
「好きだったら何してもいいのか? 俺の気持ちはどこにあるんだ。 お前、最低だな」
「・・・・・」
「顔を上げろ、谷口」
ビクリと身体を震わせた後、谷口がゆっくりと身体を起こし顔を上げた。
少し浅黒い肌に透明な涙が流れ、鼻水まで垂れている。
晃はベッドサイドにあったティッシュの箱を掴み、それを谷口に投げつけた。
「顔を拭け、みっともない」
「す・・・・すみません・・・・」
谷口が濡れた顔を拭い、鼻を拭くと晃はそっと近寄りぼさぼさに伸びた前髪をかきあげた。
「っ・・・・・・」
谷口が怯えたように身を引くが、腕を掴むと凍りついたように動きが止まる。
「お前もう少し身なりに気を使ったら? 明日髪切ってこい」
「え・・・・・」
「うっとおしいんだよ、その前髪。 俺と付き合いたいなら、それなりに小奇麗にしてろ」
「・・・・・え?」
「俺を、抱きたいんだろ? 谷口」
ニヤリと笑みを浮かべると、谷口がゆっくりと目を瞠ってゆく。
何を言われているのか分からないその顔に苦笑して、晃は手を伸ばした。
「好きなんだろ? 俺を」
谷口の固い膝の上に座り、太い首に腕を回して晃は小さく顔を傾げた。
「片岡・・・・さん?」
「どうしたい? 俺を一度抱きたいだけか? それとも・・・・これからも抱きたい?」
誘うように微笑み、ゆっくりと顔を寄せる。
唇が触れ合った瞬間、谷口が晃を勢いよくベッドに押し倒し激しく唇を貪り始めた。
「好きです・・・・! 片岡さん、好きですっ・・・」
押し潰されそうなほどの勢いに息が上がる。
噛み付くような口付けと、谷口の荒い息。
「好きですっ・・・! すみません、好きなんです・・・・、片岡さんが好きです・・・」
うわ言のように繰り返し、谷口は晃の唇を激しく貪り、身体に手を這わせる。
覆いかぶさってくる大きな背中を抱きとめながら、晃はひっそりと笑みを零した。
この愚鈍で、根暗で、融通の利かない真面目な男が道を反れてまで求めてくることが、酷く晃の心を擽る。
冴えない木偶の坊のくせに、やけに優しく丁寧に触れてくることも気に入った。
壊れ物を扱うような、宝物を扱うような谷口の手の平の動きが、愛されるとはこういうことなのだと晃に教える。
今までこれほど求めてきた人間などいただろうか。
熱い視線を入社してきてから2年、毎日送ってくるような男に今まで晃は出会ったことがない。
ましてや見つめるだけに耐えられなくなるほど、強く求められたことも。
谷口は晃が望めば、人殺しさえも厭わないかもしれない。
きっと晃が望んだことを、必ず叶えようとするだろう。
例えそれが人の道に反していようとも、他人から後ろ指さされるようなことであっても、谷口は必ず晃の為ならなんでもする。
それは確信であり、晃は夢中になって身体を弄ってくる男を抱き締めた。
「谷口、俺が好きか?」
谷口が顔をあげ、晃を真っ直ぐに見詰めてくる。
その眼差しは、いつもの暗い表情ではなく強い意志を窺わせた。
火傷しそうなほどの、熱く強い眼差し。
晃はごくりと唾を飲み込み、微笑を浮かべた。
「っ・・好きです。気が、狂いそうなくらい・・・・愛してます」
どこか吹っ切れたように谷口はそう繰り返し、切なげに晃を見つめる。
その瞳の中には、確かに狂気のようなものが見え隠れしていた。
晃が望めば、谷口は何でもするだろう。
だがこうなった以上、もしも晃が谷口から逃げ出そうとしたら、逆に殺されるかもしれない。
そんな気がした。
真面目な奴こそ、切れたら何をするか分かったもんじゃない。
谷口の熱い口付けを受け止めながら、晃はくすりと笑みを漏らした。



終わり



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