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熱視線
2


行為は酷く残酷で晃のプライドを傷つけるものだったが、男の手は胸を締め付けられるほどに優しい。
男が全てを収めて、小さく息を吐く。
そして晃の首筋に顔を埋めて、腰を揺らし始めた。
「っ・・・・・、いっ・・・・・ああ!」
ぬめりを帯びたそこは男の動きをなんなく受け入れ、切れた痛みと微かな痺れをもたらした。
卑猥な濡れた音と、肉のぶつかりあう音の間に晃と男の荒い息が交わる。
「嫌だっ・・・・、う・・・・・はっ」
男の怒張が内壁を捲りながら奥を突き、内臓ごと押し上げる感覚がした。
律動を繰り返しながら男は晃の首筋に音を立てて吸い付き、白い肌に跡を付けてゆく。
その仕草はまるでこの出来事を晃に忘れさせたくないようといった風に執拗で、きっと全身に花びらを散らせたように残っていることだろう。
名を名乗ることすらせず、言葉を発することもしないくせに男は己の痕跡を憑かれたように残してゆく。
「うっ・・・・ああ! んっ・・・・・」
ひっきりなしに晃の唇からは苦しげな喘ぎが漏れる。
だが晃自身も気付かぬうちに、内壁は男を喜んで受け止め蠢き始めた。
痺れるような微かな快感が腰に熱を集め、縮こまり怯えていた晃自身が雫を垂らす。
それに気付いた男が首筋に埋めていた顔をあげ、晃のペニスに手を伸ばした。
「っ・・・・・」
ひくりと咽喉が鳴る。
男の大きな手が震えて愛液を零すそれを緩く握り、鈴口を親指でぬるぬると擦った。
途端にゾクゾクとした快感が背中を走る。
犯されて快感を感じるなんてとどこかで思いながらも、晃は甘い吐息を知らず漏らした。
「っ・・・・も・・・・、腕・・・・外せよ・・・・・。 なぁ・・・・、谷口」
ビクリと、男の動きが止まる。
息を呑み、男は全身を強張らせてじっと晃の顔を見つめているようだった。
ばれないとでも思ったのだろうかと、晃は内心で苦笑を漏らす。
最初はもちろん晃自身、自分を襲っているのが誰なのかなど分からなかった。
だが男の動きが、やけに優しい仕草が、そして肌を刺すように強く感じる視線が。
晃に相手が誰であるかを教えた。
こんなことをしでかしそうな相手を晃は1人しか知らない。
いつかはこうなるんじゃないという予感を、どこかで感じていたような気さえする。
「谷口・・・・、こんなことをしてどうなるんだ。 頼むから、もう・・・・やめてくれ」
晃のペニスに触れていた男の手が、小さく震えた。
「・・・・・」
男の震える手が、晃を縛っていた紐に触れ結び目を解く。
固定されていた腕が外されると晃は目を覆っていた布を外し、ゆっくりと瞼を開いて目を細めた。
目の前にいるのはやはり思った通りの男で、痛々しいほどに切ない表情で晃を見つめてくる。
「谷口・・・・・・」
同じ会社に勤める谷口芳彦は、晃より2歳年下の男で、会社ではそれなりに仕事は出来るのに暗いと評判の冴えない奴だ。
人目をひくのはそのずば抜けた長身と、大きな体だったが酷く大人しい男で上手なお世辞一つ言えない真面目な性格。
ぼさぼさの黒髪と黒縁のぶ厚い眼鏡で、せっかく体格がいいのにいつも俯いて姿勢が悪い為にどんな顔をしているのかよく見ないと分からない。
ただ谷口はいつも、晃を見つめていた。
その視線に気づいたのはいつだったか、晃自身覚えていない。
ただ強い視線を感じて振り返ると、いつもそこには谷口がいた。
熱のこもった強い眼差しは常に晃を探し、どんな仕草さえも見逃さないように見つめてくるその視線に最初は辟易しながらも、その眼差しの中にある焦がれた想いに引き摺られるように晃もまた谷口をいつしか意識し始めた。
それは特別好きだとか気になるとかいった意味ではなく、ただ興味だった。
暗くて真面目一辺倒な男が、自分のような軽い性格の男を想う気持ちとは一体どんなものなのかと。
自分で言うのもなんだが晃は人に褒められるような性格ではない。
誘われて自分が気に入れば男でも女でもベッドに入るし、後腐れない付き合いは大歓迎だ。
自分の容姿がそれなりに整っていることも自覚していて、遊びの付き合いを繰り返してきた。
だから谷口の日増しに強くなる視線をどこか面白がって受け止めていた。
まさかここまで思いつめているとは思わなかったが。
「ここは、お前の部屋?」
広い寝室に目を瞠りながら言うと、谷口が小さく頷いた。
いつもかけているぶ厚い瓶底の眼鏡がない谷口を見るのは初めてで思わず顔を覗き込むと、谷口はぎょっとしたように晃から顔を離した。
その途端まだ中に入っていた谷口の昂ぶりがずるりと抜ける。
ぞくりと身体を震わせた晃は思わず唇を舌で濡らし、離れた谷口ににじり寄った。
「なあ、どうしてこんなことをしたんだ? 犯罪だぞ? 俺を犯して、どうしたかったんだ」
そういえば親睦会には珍しく谷口も出席していた、谷口はそういった場所が苦手なのかほとんど出席したことはなく、珍しいこともあるもんだと思っていた。
それは晃をこうして連れ込むためだったのだろうか。
泥酔した晃ならば、簡単にやれると思ったのかもしれない。
「なあ、どうしてだ? 俺がそんなに嫌いだったのか? こんな嫌がらせをするくらい?」
口元が緩みそうになるのを必死に堪えながら、晃は渋い顔を作って谷口の前でわざとらしく溜息を吐いてみせた。
「ちっ・・・・違います! すみません! すみません・・・・っ」
谷口はがばっとベッドに手をついて頭を下げ、大きな身体を震わせて涙を流し始めた。
晃の倍以上ある大きな身体は、こうしてスーツを着ていないとまた違って見える。
肩から腕にかけての筋肉の筋も、盛り上がった胸も、くっきりと割れて固い腹も。
これ以上ないほどに晃を興奮させた。
勿体無い、と思う。
これで性格も明るく活発ならさぞ女にもてるだろう。
初めてきちんと見た素顔も、悪くない。
「谷口、謝るばかりじゃ分からないだろ。 何故こんなことをしたんだ」
ベッドの上で、裸で、土下座する男を眺めながら晃はこっそりと笑みを噛み締めた。
谷口の肩が、大きく震える。



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