恋だとか愛だとか 第7話 その後、龍馬の耳を引っ張りながらホテルに戻り、新之助は洗いざらい全てを吐かせた。 新之助が喧嘩した男達は元々龍馬の組の準構成員だったこと。 それを知りながら新之助に探すのを手伝えと言ったのは、ただ一緒に居たかったのだと。 そして色々な店に新之助を連れていき紹介したのは、新之助が自分のものだと、だから何かあっても決して手を出すなとの牽制の為だったこと。 それと同時に、新之助を見せびらかしたかったのだとのたまった。 それらを全て吐かせた新之助は、聞き終わると盛大なため息を漏らした。 つまりは、騙されていたのだ。 100万円払えなどと脅しておきながら、その実逃げた男達を知っていたのだから。 だというのに、何故か腹は立たなかった。 むしろ、そんな嘘までついて自分を引きとめようとしたその行為が、酷くくすぐったかった。 「あー、ならさ。 もう俺あんたのとこに来る必要ないよな? 弁償もいらんやろ?」 くすぐったかったが、それでもあえてそう言うと、目の前の男はその渋い顔をさらに渋くして唇を引き締めた。 その変化すら、新之助の胸をくすぐったくする。 本当に、男前なのだ。 男前で人目を引く色気もあって、しかも強い。 なのにその男が、新之助の言葉ひとつで反応を示すのだ。 それは末っ子で猫可愛がりされ続け、甘やかされてきた我が侭な新之助の心を酷く満たすものだった。 「お前が来ないなら、迎えに行く、毎日だ。 逃げても絶対捕まえてやる」 「嫌やって言うたら? 触られたくないって、俺言うたやん」 「・・・・・・」 男は無言で、ゆったりと広いソファに座った新之助を抱き上げ、そして無言のまま別の部屋への扉を開いた。 「嫌やって、言いよるやんか!」 そこにきて慌てた新之助は龍馬の腕から降りようと足をばたつかせた。 だがぽんと放り投げられ、ベッドに沈み込んだ。 からかいすぎたと思ったときには遅かった。 放り投げた新之助の上に無言のまま乗り上げ、龍馬は冷たい無表情で新之助の顔を掴んだ。 「龍馬っ・・・・・、痛い」 掴まれた顎が軋んで、痛みに顔を顰めると不意にそれが外された。 恐る恐る目を開いて龍馬を見上げると、見ているこちらの方が胸を締め付けられる切ない表情とぶつかって、新之助は思わず手を伸ばしていた。 「男前やのに、なんて顔しとるんよ。 ごめん、嘘やけん。 触られたくないとか、嘘やけん」 龍馬の固い頬にそっと触れて、微笑むと無表情だった顔に安堵が浮かぶ。 も・・・なんつー顔するんや・・・・。 心臓が痛い・・・・。 胸がどきどきして、咽喉元がなんだか熱い。 それが何なのか分からず、新之助はただ龍馬の頬を撫で続けた。 「あ、でもあれやけんな。 ちょっ・・・! 待て! こうゆうんはナシ! 待てって!」 安心した途端これかと身を捩ると、また憮然とした顔になって新之助の服を脱がしにかかる。 「龍馬! 聞けっちゃ! 友達・・・・、そう友達な!? 『お友達からはじめましょう』とか!?」 「ああ?」 ほとんど服を剥ぎ取られ、ぜいぜいと肩で息を吐きながら新之助は圧し掛かる龍馬を押しのけ、そうやと大きく頷いた。 「お友達、とりあえず、お友達期間とか・・・・・どう? こうゆうのは、嫌やもん・・・・」 龍馬に触られるのが嫌だと言うことではない。 ただ、こうした行為はやはり好きな者同士がすることだ。 だがそう言うと更に龍馬は不機嫌さをあらわにした。 「お前に惚れてるって、言わなかったか? なら問題ないだろ。 俺はお前とオトモダチになるつもりはない」 「問題大アリやん! 俺の気持ちはどこいった! 俺は惚れてない、好きだとか言うたことないやん!」 ベッドの上で後ろに下がりながらそう怒鳴った新之助に瞬きをして、龍馬はにやりとした笑みを浮かべた。 「なら、嫌いか?」 「は・・・・・?」 「嫌いなのか? 俺を」 じりじりと新之助に近寄り、その足首を掴むとぐいっと引き寄せて体の下に引き込むと上から顔を覗き込んだ。 「どうなんだ? もう二度と会いたくないほど嫌いか? 顔も見たくないほど?」 「・・・・・・・」 嫌いかと問われると、そうだとは言えなかった。 不思議と、何をされても心底嫌いだとは思えなかったし、二度と会いたくないなどとは思わなかった。 というよりも、二度と会えないのは嫌だと思った。 「・・・・嫌いや、ない。 けどっ! あっ、ちょっと待て!」 「嫌いじゃないならいいだろ。 大人しく抱かれろ、また気持ちよくしてやるからな」 下に抱き込んだ新之助の腰を抱き寄せ、既に猛った自分のそれを押し付ける。 途端に顔を赤らめ、目を潤ませる新之助に満足げに目を細めると、本格的に愛撫を繰り広げ始めた。 「好きだぞ、新」 耳元で囁かれるとぞくりと身体が震えて、覚えさせられた快感はいとも簡単に身体を熱くする。 恨めしそうに体中を弄る龍馬を睨みつけて、新之助は深いため息を漏らした。 だけど触れてくる指が酷く優しいから、見つめてくる瞳が酷く甘いから。 もう嫌だとは言えなくなってしまう。 熱を孕んだその目に見つめられると、なんだか胸が酷く高揚してもうどうとでもしやがれ!といった気持ちになる。 だがそれでも必死に虚しい抵抗を続ける新之助とそれを楽しげに押さえる龍馬との間でしばし攻防が続き、勝者は・・・当然龍馬で。 その翌日も翌々日も、延々と新之助は龍馬の熱い気持ちを身を持って知ることとなる。 そしてその後、新之助の通う大学の前には毎日夕方になると黒塗りのベンツが止まっていた。 終わり [*前へ][次へ#] [戻る] |