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恋だとか愛だとか
第2話



合コンは無事終了。

ただ新之助は女の子をお持ち帰りすることも出来ず、言われた通り昇と店を出て家路へと着いた。

「お前のせいやけん・・・・、俺の合コンデビューやったとに・・・・・」

「まだ言ってる。 いいじゃん、軽い女に遊ばれてポイは新も嫌だろ?」

そう言う昇は聡美以外の2人の女の子から名刺を受け取っていたと睨み付けると、昇はそれをポケットから取り出して新之助の目の前でびりびりと破いた。

「あああああっ! もったいないやんっ!」

「いらねっつーの、誰にでもついていくような女とは俺は寝ないの」

「寝っ・・・・」

暗い夜道でも分かるほどに顔を赤らめた新之助ににっと笑って、昇は破いた紙を道端のゴミ箱に放り投げた。

「でも・・・・やっぱもったいない」

「いいんだよ、誰でもいいわけじゃないからな。 俺は」

ゴミ箱をじーっと見つめて溜息をつく新之助の頭を撫で、帰ろうと促すと大通りへ向けて歩き出した。

駅までは途中に歓楽街がある。

そこを通るのが一番の近道なのだが、新之助1人で歩くと何故かまともに駅にたどり着けない。

というのも色んな人間から声を掛けられ追いかけられ、むちゃくちゃに走り回っているうちに道をそれてしまうからだ。

だからなるべくこうして飲んだ後は昇が駅まで新之助を送る。

それがここ最近で当たり前のようになり、新之助もそれを疑問に思う事もなかった。

基本的に末っ子で甘やかされた新之助は我侭で女王様気質なのだ。

本人にその自覚はないが。

歓楽街に入ると、ピンク色のネオンがチカチカと眩しい。

色んな看板を掲げた呼び込みがちらほらと見えるが、昇の睨みに近寄る事が出来ずぼんやりと新之助と昇の目立つ二人組みを見送った。

体格もよく背も高く顔もいい、しかも性格もいいときたら彼女の1人くらいいてもいいのだろうが、昇にはその影が見当たらない。

それを不思議に思いはしても、彼女が出来たらこうして遊んでくれなくなると思うとあえてそれを口にする気にもなれなかった。

出来ればこうして、ずっと遊んでくれていたらいいななどと勝手なことを考えつつ、新之助は昇に背中を押されて歓楽街を進んだ。

「いやっ! 離してください!」

ふと、若い女性の悲鳴が聞こえて新之助はそちらへと視線をやった。

煌びやかな灯りのついた店の前で、若い女性が数人の男に囲まれて、しかも腕を掴まれていた。

男達もまだ若く、見た感じではチーマーという奴だろうか。

チーマーも暴走族も区別のつかない新之助はそれを見て顔を顰めた。

周囲を歩く人々は係わり合いになりたくないとそそくさとその場を離れていく。

・・・・ホント、都会の人間ってのは冷たいな。

新之助は昇が止める間のまくそこへ飛び出ると、男達に向かって怒鳴りつけた。

「何しとるんか! 女性一人によってたかって恥ずかしくないんか!」

「ああ?」

女性を囲んでいた睨みをきかせて男達が振り返り、だが新之助の姿を見とめると鼻で笑い近づいてきた。

「なんだこの小さいのは。 子供がこんな時間まで遊んでていいのかよ」

男の1人が新之助の頭をつんと突付いた、その次の瞬間足が振り払われ男は無様に道路にひっくり返っていた。

何が起こったのか分からず目を瞠った男は顔を真っ赤にして立ち上がり新之助へと手を伸ばす。

だがその手を振り払い、新之助はまた足を勢いよく繰り出し男の脛を蹴りつけ、それに身を屈めた男の顎を思いっきり殴り上げた。

それからは1人対数人の乱闘になり、いつのまにか周りには人だかりが出来ている。

昇はこうなってしまってはどうしようもないと後ろでそれを眺めた。

見た目を裏切る新之助の喧嘩の強さは知り合ってから3週間、よく知っている。

空手が黒帯だとか、剣道は初段だとか。

一人一人を蹴りつけ道路に転がし、それでも楽しそうにしている。

基本的に動くのが好きなんだよな、と見当違いのことを考えながら昇は乱闘が終わるのを待った。

だが。

「何をしている」

酷く低く、そして重厚な声が昇の耳に響き、それは乱闘騒ぎを起こしていた男達の耳にも届いたらしい。

一瞬動きが止まり、声の方へと目を向けると一気に男達の顔から色が失せた。

「逃げるぞっ!」

1人がそう叫ぶと一斉に男達は脱兎のごとく逃げ出し、残されたのは顔を上気させ肩で息をつく新之助1人だった。

「なん・・・・、もう終わりかよ」

ふーと息を吐き、新之助は待っていた昇へと向き直る。

そしてその隣でこちらをきつく見据える男に気付いて、きょとんと首を傾げた。

ダークスーツに身を包み、黒々とした長めの髪を後ろに撫で付けているが嫌味ではなく。

大きな体の昇でさえも小さく見えるほどの立派な体躯とどこかの外国人のように彫りの深い顔立ち。

年は30代前半くらいだろうか、どっしりとして落ち着いた男の色香を感じさせる雰囲気に思わず見惚れた。

アメリカの映画俳優で似たタイプがいたように思うが、思い出せない。

確か、最近観た映画にも出ていたと思うんだけど・・・・・。

そしてハタと思い出す。

母親が好きな映画俳優で、ERに出てた。名前は確か・・・・・。

ジョージ・・・・・なんとか。

都会にはやっぱり色男が多いんだなぁと昇と見比べて新之助は感嘆の息をついた。

そして男を野次馬の1人と勘違いしていた新之助はその横を通り過ぎ昇のところへ行こうとした。

「ちょっと待て、あの看板を弁償してもらわないとな」

だが男の横を通り過ぎようとした新之助は強く腕を掴まれてぎょっと目を瞠った。

「俺やない! 逃げたあいつらが勝手に転んでそれにぶつかったんやから、俺のせいやない!」

慌てて腕を振り払おうとするが強く掴んだ指はびくともせず、男は新之助を見下ろすと冷たい双眸で貫いた。

店の前に置いてあったけばけばしい看板は外側の枠が外れ、中の電球がのぞいている。

だけどそれは新之助ではなく、逃げた男達が乱闘の最中壊したものだ。

「お前が壊したも同然だろう、来い」

ぐっと腕を引かれ壊した看板のピンク店へと引き摺られていく。

冗談じゃない!と足を踏ん張ってみても敵わず、仕方なしに空いている腕を振り上げたが逆に後ろに回され痛みに新之助は思わず呻いた。

「とんだじゃじゃ馬だな」

新之助は助けを求めようと昇を振り返った。

だが昇の周りにも男に似た黒いスーツの男達が囲んでいる。

「昇・・・・!」

「安心しろ、あの男は喧嘩には加わっていなかっただろう。 お前が大人しくしていたらあいつは帰してやろう」

店の扉を開くと暗い廊下があり、進むとなにやら華やかな女性達が魚のようにひらひらとした衣装で歩いていた。

目のやりどころに困る露出の高い衣装に思わず固まった新之助は男に強く引かれ、そのまま奥へと連れて行かれた。

いくつものソファと小さなテーブルがあり、男達と綺麗な女性達が会話に花を咲かせている。

ただ男の手は女性の足や胸元にあり、どうもただの飲み屋ではないらしい。

キャバクラ・・・・。 ランパブ・・・・・・?

クラブ・・・ではないよな。

飲み屋の色々な種類も知らない新之助には初めて垣間見る世界で、今の状況も忘れて見入ってしまう。

そしていつか金を貯めてこうゆう店で可愛い女の子を侍らしたいという滑稽な夢を描いた。

女の子のように可愛らしい外見であっても、新之助も男の子なのだから。

そんなことを考えているとついに店の事務所らしき扉の前に着く。

男がそこを開き、新之助を中へと押し込んだ。

「さて、名前と住所を聞かせてもらおうか。 それと、学生証を出せ」

煙草臭く薄汚れた事務所の中には黒い皮のソファとやけにぶ厚いテーブル、壁にそうように2台のパソコンが並んでいた。

パソコンの前には1人の若い男が座っている。

だが若い男は新之助たちが入ってくると椅子から立ち上がり、事務所を出て行った。

「・・・・・俺のせいやないもん・・・・・・。 俺は絡まれてた女の人を助けただけで、後はあいつらが壊したンやから」

ぶすっと口を尖らせ頬を膨らませて新之助はソファにふんぞり返り、男を真っ直ぐに睨みつけた。

男はそんな新之助に一瞬唖然として、だがふっと苦笑を漏らすと煙草を手に取った。

「弁償はしないと?」

「・・・・・あいつら探してよ。 蹴り飛ばしたら勝手にすっころんだんやもん」

だいたい女性に絡んでいたあいつらが悪い。

目の前の男がどんな人間かもしらず、その身体から発する威圧的なオーラにも気付かず新之助はそう嘯いた。

「店の看板壊しておいて逃げ出すのは良くないよなぁ」

「そうやね」

「でも俺はそいつらの顔をちゃんと見てないから探そうにも分からない」

「・・・・・・そうやね」

にやにやと笑い出した男に首を傾げながら頷くと、男はさも楽しそうに目を細めた。

ほんっとに男前やなー。

渋くて低い声も魅力的やし、女が放っておかないタイプってこうゆうのを言うんやな。

日本のテレビに出てる俳優なんかよりよっぽど色気もあって、しかも頼りがいもありそうな・・・・。

「じゃあ、決まりだな」

「・・・・・・・は?」

「逃げたあいつら、探すの手伝え」






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