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恋だとか愛だとか
2


駅からいつもの商店街を通り、アパートへと帰り着いた昇は見慣れた車と、見慣れた男の姿に頬を強張らせその場に立ち尽くした。
赤い外車と身体に馴染んだスーツがよく似合う男は、煙草の紫煙をゆっくりと吐き出し、ゆっくりと昇へと歩み寄ってくる。
連絡の取れなくなった昇を心配していたのか、怒っているのかその表情からは窺い知ることが出来ない。
暗い夜道を照らす街灯が男の顔に影を作り、昇はごくりと唾を飲み込んだ。
「お帰りなさい、昇くん」
「・・・・た、だいま」
小野寺は首を竦め目を彷徨わせる昇ににこりと微笑み、手を伸ばして腕を掴んだ。
「車に乗ってください」
「あ、いや、俺明日朝一から講義が・・・・」
「乗ってください」
掴んだ腕に力を込め、有無を言わさぬ声音で小野寺は言うと目を細めて昇を見据えた。
きつい視線に晒された昇は小野寺が促すままに車に乗せられ、助手席で深い息を漏らす。
運転席に乗り込んだ小野寺はそんな昇に気付きながら声を掛けることなく、静かに車を発進させた。



部屋に入ると嗅ぎ慣れた煙草の匂いが微かに鼻を掠めた。
リビングは相変わらず物が少なく、綺麗に整頓されてある。
最後に訪れたのはつい3日前のことで、懐かしさなどはないがどこかホッとする空気があった。
それは小野寺の匂いと、煙草の匂いのせいかもしれない。
「さて、どこで何をしていたのか、話していただけますか? 昇くん」
振り返ると上着を脱ぎ捨て、簡単にネクタイを緩めている姿が目にはいった。
脱いだ上着を、無造作にソファに投げた仕草で小野寺が苛吐いていることが分かる。
「だから・・・・、飲み会があってさっき帰ってきたんだって。 いつもの居酒屋だよ」
「ではなぜ、携帯の電源を落としたのですか。 迎えに行かれては困るからでしょう? 誰と一緒だったんですか。 言えないような相手ですか」
確かに、いつもの居酒屋ならば小野寺に言えない筈はない。
小野寺が疑うのも無理はないような気がして、そして実際言えないような場所に居たのだから答えようもなかった。
黙り込んだ昇に、小野寺の眼差しが鋭さを増す。
キン・・・と辺りが凍ったような空気に耐え切れず昇は頭を掻き毟り、その場にしゃがみ込んだ。
「いつもの居酒屋行って、その後無理やりヘルスに連れて行かれたんだよっ。でも何もしてないからな、服だって脱いでないぞ!」
一気に捲くし立てた昇に眉を顰めて、小野寺は更に冷たく昇を見据えた。
「本当だって! なんなら、そうだ! この子に聞いてくれてもいい。 ようこちゃん!」
胸ポケットに入っていた名刺を思い出して昇はそれを小野寺に差し出した。
昇が差し出した名刺を受け取り、それを見た小野寺の眉間に更に皺が寄って昇は首を傾げる。
「嘘だと思うなら聞けばいいだろ。 店には入ったけど話をしただけだし」
「わざわざご丁寧にメールアドレスから携帯の番号までですか。 裏、見ました? プライベートで会いたいと書かれてありますよ?」
「・・・・は?」
座り込んだままの昇を上から見下ろす小野寺の周囲の空気が絶対零度の冷たさを持つ。
慌てて立ち上がった昇は小野寺から名刺を奪い取ると、裏返して顔を青褪めさせた。
――――今度外で、会いたいです。 電話待っています。 ようこ
「何もしていないのに、よほど気に入られたようですね。 どうするんですか? この子、君からの連絡を待っているみたいですよ」
名刺の裏を凝視している昇にくっと笑い、小野寺はそれを取り上げるとテーブルに置いてある灰皿に落とし、火をつけると昇を振り返った。
眼差しがやけに冷たく鋭い。
「ようこちゃん、可愛かったですか?」
「まあ、それなりに・・・。 あ、いや、特にそこまででは、なかったかな?」
小野寺の顔から表情が消えたのに慌てて言うと、視線が逸らされる。
小さな名刺はすぐに燃え尽き黒い燃えカスが灰皿の中でゆらゆらと揺れた。
もったいないとは思わなかった、連絡をするつもりは全くなかったのだから。
だが小野寺は気に食わないようで、灰皿を台所にもって行くと中身を零し水で洗い流した。
「昇くん、私は嫉妬深い男だと、知っていますよね?」
濡れた手をタオルで拭い、戻ってきた小野寺はリビングの真ん中で立ち竦んでいる昇の前に立つと、静かに手を伸ばした。
ゆっくりと近づいてくる手が、昇の頬を撫で、髪を梳き後頭部へと置かれる。
ぐいっと引かれたかと思うと咬み付くような口付けが落とされた。
「っ・・・・・」
舌が噛まれた痛みにじわりと涙が浮かぶ。
唇を離すと、小野寺の口の端に薄っすらと血が滲んでいた。
「なにす・・・・・」
「微かに、君から甘い香りがします。 移り香ですね、本当に・・・・腹立たしい」
昇の髪に手を差し込み、首筋に鼻を押し付けて小野寺は唸るに呟いた。
触れ合うほど近くにいたわけでもなかったのに、そんなに匂うだろうかとぼんやりと考え昇は小さく溜息を漏らして首筋に顔を埋める小野寺の背中に手をまわし、煙草の匂いがする髪に頬をすり寄せた。
「ごめん・・・・。 でも本当に、話をしただけで出てきたんだ。 だからもう、怒るなよ」
大きな図体をして犬のように首筋を鼻で擽る男を抱き寄せ、昇は苦笑を漏らす。
結局、男が怒っているのは嫉妬からで、それは昇が好きだからなのだ。
だから、嬉しいとさえ思う。
怖いと思ってみたり嬉しかったり、愛しかったり悔しかったり。
小野寺を想う気持ちはぐるぐるしていていつも落ち着かない。
それでも根底にあるのは、お互いに同じ想いなのだ。
もし小野寺がああした店に行って30分間女の子と密閉された空間にいると思ったら、昇も嫉妬で気が狂いそうになる。
そして昇ならば小野寺を殴り飛ばしているだろう。
「なあ、何とか言えよ。 悪かったって・・・・」
「本当に、何もなかったんですね? では証拠を見せてもらいましょうか」
顔を上げた小野寺はすでにいつものような柔らかな表情に戻っていて、だがその目の奥にはちらちらと欲望の色が見え隠れしていた。
そして唐突に昇が来ていたシャツに手を伸ばし、やけにゆっくりとボタンを外してゆく。
「おい、何してんだよ・・・・」
にこやかに笑いながらボタンを外し、シャツを剥ぎ取ると小野寺は痕跡がないかを調べるように昇の肌に手を這わせる。
だがそれだけでは納得できないのかいきなり膝をつくとズボンのチャックを下ろし、昇自身を取り出すとぱくりと口に含んだ。
「っ・・・、ちょ・・・・小野寺さん!?」
明るいリビングで、しかも立ったまま咥えられて逃げようとした昇に小野寺が柔らかなそれに歯を立てる。
舌を噛まれたこともあり動く事も出来ず固まってしまった昇を見上げて、小野寺が口に含んだまま笑みを浮かべた。
「石鹸の香りはしないですね。 信じますよ、でも許しません」
「なんでだよ! あっ、ちょっと待てって・・・・・! うっ・・・・・」
小野寺が舌を突き出し、尖端を舐めあげる仕草にぞくりと肌が粟立つ。
上から見下ろしていることに耐えられなくて目を瞑ると、生温かい咥内にねっとりと包まれていく感触に思わず甘えるような溜息が漏れた。
舌を絡め、吸い上げられると堪らず足が震える。
すぐにでも達してしまいそうな強烈な刺激に昇は小野寺を引き離そうと腰を引く、だがまた歯を立てられ、軽い痛みに息を呑んだ。
「小野寺さんっ・・・、もう離せって」
足に力が入らず、震える昇をフローリングの床に寝かせると小野寺はまたそれを口に含み唾液を絡めて愛撫を繰り返した。
固く冷たい背中の感触と、下半身の熱が昇を追い上げてゆく。
「ひっ・・・あっ・・・・」
窪みから筋までを舌先でなぞられ、付け根を舐めあげる。
すでに固くなった昇のそれをまるで愛しいというように手で包み込み、尖端に口付けて啜るように吸われると足先からぞわぞわと何かが這い上がってくるような感覚がした。
「っ・・・も・・・、イク・・・・」
だから口を離せと小野寺の頭に手を伸ばし引き離そうとすると、その手を掴まれ、ぎゅっと握り締められた。
「あっ・・・ああ!」
小野寺に握られた手が、ぴくぴくと震えた。
震える手を握り締めたまま小野寺は昇が吐き出したものを飲み込み、最後の一滴までも吸い上げた。
「くっ・・・・」
甘い痺れと、くすぐったさに腰を揺らすと小野寺が顔を上げる。
その唇が濡れているのにカッと顔を赤らめた昇の首筋に顔を埋め、小野寺はくすりと笑みを零した。
「君の匂いがします。 もう、他の匂いはしない」
「・・・・なに?」
昇の汗の匂いに甘い香水の香りが掻き消されているのに小野寺は満足気に微笑み、昇を抱き起こすと額に口付けを落とした。
「好きです。 昇くん」
床に座り昇を後ろから腕の中に抱きこんで、恥ずかしそうに顔を赤らめている頬を指でなぞる。
ぎゅっと強く抱き締められる、それに応えるように昇は小野寺の胸に背中を預けた。
リビングの床で、ほとんど裸同然の自分を省みるとなんだか馬鹿馬鹿しく思えたが今はこのままでいたくて、昇は吐息を漏らすと目を閉じた。
「眠たいですか? まだ終わりではありませんよ」
くすくすと笑う小野寺を無視して、昇は脱げたズボンに手を伸ばす。
だが手が届く前に引き寄せられ、後ろを見やると唇が落ちてくる。
舌が絡み合う深い口付けに身を捩ると、唇が離れた。
「ベッドに、行きましょうか・・・・」
密やかな声に、誘われるように頷くと小野寺が優しく微笑んだ。




後ろから穿たれたまま昇は気の遠くなりそうなほどの快感に飲み込まれ、喘ぎすぎた咽喉がひりひりと痛む。
昇の腰を掴んだまま強く打ち付けてくる小野寺はその姿態を酷く満足気に見つめた。
「まだまだですよ。 他で処理したいと思わないように、いくらでも満足させてあげます」
「っ・・・から、違・・・ああっ」
置くを抉るように貫かれ、襞をめくるように引き抜かれる。
昇が感じる場所をわざと外し律動を繰り返す小野寺を恨めしげに振り返ると、小野寺の怒張がずるりと中から取り出された。
「・・・・あっ」
足を掴まれ、仰向けに転がされ今度は真正面から小野寺が覆いかぶさり熟れた秘部に尖端を押し当てた。
「2度とああした店には行かないと、約束できますね?」
「・・・・するっ、約束する!」
ず・・・っと小野寺の怒張が中へと捻じ込まれる、ぞくぞくとした快感が腰を震わせた。
体中が熱くて頭の中が沸騰してしまいそうになる。
「くっ・・・・・小野寺さ・・・・」
小野寺の手が昇の頬や耳を撫で、唇が首筋をなぞる。
そんな些細な仕草が酷く大事にされているような錯覚を呼んで、昇は小野寺の背中に手を回し抱き寄せた。
「小野寺さん・・・・小野寺さ・・・・」
朦朧としながらも呟く昇に小野寺が静かな笑みを浮かべた。
「昇くん・・・、静ですよ。 呼んでください」
身体を駆け巡る熱にぼんやりと小野寺を見上げると、ぞくりと背中が粟立った。
額には汗が薄っすらと浮かび、微かに目許は上気している。
いつもの冷静で穏やかな姿とはまた違う小野寺の表情に心臓が鼓動を速めた。
「し・・・ずか・・・・・?」
「そう、女性のようであまり好きじゃないんですが・・・・。 君にはそう呼んでもらいたい」
やけに甘い声が耳元でこだまして、心臓が震えた。
耳元から顔を離し、上体を起こした小野寺が昇のペニスに手を添えながら激しい律動を繰り返す。
潤滑剤が立てる卑猥な音と腰を打ちつける音に混じって、昇の声が寝室に響き渡った。
「うっ・・・あ! は・・・・っ」
内壁が擦られ、ずん・・・と内臓が押し上げられるような感覚。
身体ごと持っていかれそうな強烈な快感に頭の芯が崩れていく気がした。
小野寺が握ったままのそれに爪を立て、鈴口を割るように弄ると耐え切れず昇は絶頂を迎えた。
「っ・・・・ああっ」
全身がピクピクと震え、中の小野寺を締め付ける。
一瞬顔を顰めた小野寺もまた昇の中で欲望を吐き出し、熱いそれが奥を叩くように注がれた。
「く・・・・」
そのまま昇の上に倒れ込んだ小野寺の背中が汗でしっとりと濡れていて、拭き取るように背中を撫でると小さな吐息が聞こえた。
「好きです。 昇くん」
溜息と共に囁かれた言葉は何度も言われ慣れているはずなのに、昇の心を震えさせる。
「・・・重い」
照れくさくて不貞腐れたように言うと、小野寺が苦笑しながら顔を上げた。
「好きですよ、愛しています」
「っ・・・・・」
優しく微笑みながら何気なく言う小野寺に、昇の顔に赤みが増す。
そんな昇を眩しそうに見つめ、小野寺は腰を浮かせた。
「う・・・・・」
ずるりと力を失ったものが中から取り出される。
それと共に小野寺が吐き出したものも零れ落ち、その感触に昇は顔を顰めた。
顔を顰めた昇の口元に小野寺が指を這わせ、そして唇を重ねた。
繰り返される軽い口付けとあやすように身体を撫でる手に、だんだんと瞼が落ちてゆく。
「好きです・・・、昇くん」
静かな、だが強い響きを伴った小野寺の囁きが胸に沁み込む。
応えたくて腕をあげ小野寺の髪を撫でると、ぎゅっと強く抱き締められた。
まだ熱い互いの身体がやけに心地良い。
「小野寺さ・・・・」
まどろみながらそう呼ぶと、小野寺が苦笑しながら溜息を吐いたような気がした。


終わり




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