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不可解な熱
粉雪 +3




そろそろ桜の開花が始まりそうな暖かな日差しに眠気を感じる。

まどろみながら頭の下に感じる柔らかな感触に浸りつつ田村は目を閉じた。

髪を優しく撫でてくれる指をそっと掴むと相手が小さく笑う。

「眠たいんでしょ?寝てていいですよ」

密やかな声に目を薄く開くと田村を見下ろす瞳とぶつかって。

その頬に触れると手のひらに擦り寄ってきた。

「諒・・・・」

「うん・・・・?」

抱き締めたいなと、唐突に思った。

いつも傍にいて、触れることに躊躇いなどないのに。

いつだって抱き締めてその感触を感じているのに。

不思議となんでもないこんな時、抱き締めて抱き締めて息も出来ないほどに抱き締めて。

泣かせたいと思う。

「どうしたんですか?目、覚めちゃいました?」

微笑みながら頬を撫でる田村の手に自分の手を重ねて首を傾げる諒に愛しさが増す。

「そうだな、目が覚めたようだ・・・・。なあ、諒」

「はい・・・」

「俺のこと、好きか?」

「・・・・・・」

途端に顔を真っ赤にして目を瞬かせる諒にどうしようもなく顔が緩む。

本当に、こんな姿は諒の前以外では見せられたものじゃない。

特にあの神田の野郎の前では。

「好きか?」

もう一度そう囁くと、真っ赤な顔のまま小さく頷いた。

「好きか?」

「す・・・きです!もうっ!」

パシンッと音を立てて額を叩かれて、苦笑しながら起き上がると耳まで赤くした諒がソファから立ち上がった。

その腕を取り膝に抱き上げ、顔を上げさせると目が少し潤んでいるのに心臓が震えた。

「俺も、好きだ」

そう呟いた声は少し掠れていた。

本当にどうして、この男はこんなに可愛いのだろうか。

何かを、誰かを愛しいと思う気持ちはこんなにも熱く胸を滾らせるものなのだろうか。

手に入れさえすればもしかすると、この気持ちも冷めてしまうかもしれないと思っていた。

だが諒を愛しいと思う気持ちは手に入れてからもなお高まり、もし他の誰かが諒を奪おうとしたものならきっと自分は、刑務所行きだ。

もちろん、そんなへまはしないが。

「慎一さん・・・・・?」

「ん?なんでもない」

見上げた諒に軽く口付けると恥ずかしがるように俯く顔をまた上げさせ、今度は深く唇を合わせる。

少し乾いた唇を溶かすように優しく舌でなぞると少し震えた諒に思わず笑みが漏れた。

そのままソファに押し倒し、吐息さえも奪うように荒々しく口付けを交わすとそれだけで下腹が熱くなる。

キスだけでこのざまかと自分でも呆れる。

だが太腿に当たる感触で諒もまた感じているのだと思うともう余裕はなかった。

「諒・・・・」

まだ日も高い昼間から何を盛っているのかと自嘲しながら、田村は諒の服を脱がしにかかる。

少し色づいた白い肌に指を這わし、ピンクの胸を舌で突いた。

「ん・・・・・」

鼻から抜けるような甘い吐息に頭の芯が熱くなる。

ふつふつと滾る内面を押し隠すように殊更ゆっくりと愛撫を繰り返した。

「あっ・・・・。やぁ・・・・・」

諒自身を口に含み舌で弱い部分を刺激しながら蕾を指で解す。

昨夜の残滓がまだ残っているのか中は湿っていて温かかった。

「あっ・・・・ぅ」

足を震わせ快感に耐える姿は普段の清楚な雰囲気と違って酷く淫靡に見える。

こんな顔を知っているのは、自分だけなのだと思うと堪らなく興奮した。

「諒・・・・・・」

「も・・・・、駄目っ・・・。ね・・・・」

黒く綺麗な髪を撫で、その髪に指を絡めてふと思い出す。

まだこうなる前、いつかベッドの中でこの髪に指を絡ませたいと何度も思った。

今は思う存分、そう出来る。

「ああっ・・・・!」

諒の頭を抱きこみ、髪に指を絡めたまま一気に挿入した。

しなる体を上から押さえ込み奥を探ると一番弱い部分に尖端が当たるのが分かった。

「ここ・・・・好きだろ?」

「やっ・・・、ああっ・・・・!」

背中に諒の爪が刺さる。

チリッ・・・とした小さな痛みにどれほど諒が感じているのかが分かった。

律動を繰り返し、そこを集中して攻める。

蠢いて絡まる内壁に田村の限界も近かった。

「諒・・・・・ッ」

「し・・・いちさっ・・・。あああああっ・・・!」

田村の腹と諒の腹に白濁した液が飛び散り、諒の身体が一気に弛緩した。

「あ・・・・。んんっ・・・」

締め付ける後秘の動きに田村も諒の最奥へ劣情を吐き出した。

どくどくと流れでるそれに合わせて諒の身体が震える。

「・・・・・くっ」

最後の一滴まで絞り取られる感覚に呻き、ずるりと濡れたそれを蕾から出す。

どろりと白く泡立ったものが溢れでる感触に諒の眉が顰められた。

「風呂、入るか?」

「う・・・ん。でも、もう少しこのままで・・・・」

胸に頬を寄せてきた諒にまた下半身に熱が篭りだす。

思春期のガキのように盛る自分にさすがの田村も呆れた。

昨夜も散々貪ったというのに欲望はとどまるところを知らないようだ。

だがさすがにこれ以上すると壊しそうで、田村はぐっとそれを堪えた。

「諒・・・。好きか?」

「・・・好き、です」

田村の胸に顔を隠して小さく応えた諒をぎゅっと強く抱き締め、小さく息を吐く。

それはやはり、少し震えていた。

「俺も、好きだ・・・」

その時。

ピンポン、ピンポンピンポーン・・・・。

「・・・・・・」

勢いよく鳴らされる呼び鈴の音に田村のこめかみがぴくりと動く。

それを見上げていた諒がふっと笑ったのに田村は苦い表情でチッと舌を鳴らした。

「この鳴らし方、神田さん・・・ですね」

「あの野郎・・・・・」

日曜日になると毎週のように現れ引っ掻き回して遊んで帰る腐れ縁の男の顔を思い浮かべて田村は苛々としたまま諒の身体を抱き上げ、浴室へと向かう。

「出なくて、いいんですか?」

「・・・・・いい」

「でも」

「あいつ・・・・。いつか沈める・・・」

浴室に入りシャワーのコックを捻って出てきた熱いお湯で諒の身体を流し、石鹸で綺麗に洗っていると諒が何事かを考え込んでいるような顔をしているのに気付いて、田村はその顔を上げさせた。

「どうした?」

「・・・・・・・」

「諒?」

「神田さんと、慎一さんって・・・・。なんていうか・・・・すごく、仲いいですよね」

「・・・そうか?」

洗い終わった身体を浴槽に入れ、後ろから抱き込むように座ると白い首筋にちゅっと唇を落とす。

くすぐったいのか身体を捩るのを押さえて吸い付くと赤い跡が残った。

「すごく仲良くて・・・。慎一さん、神田さんにはすごく、心を許してるように見えます」

「付き合いが長いからな。あいつには今更取り繕う必要もない」

「そう・・・ですね。でも、時々、神田さんの方が慎一さんに合ってるような気がして・・・・」

「・・・・・・・」

ぐいっと諒の身体を反転させ向き合うように座らせると泣きそうになっているのに堪らず引き寄せ抱き締めた。

どうしてそう・・・・・。

体中を駆け巡る愛しさに酔ったように目が眩んだ。

「神田に、焼きもちか?」

「っ・・・・・」

「諒が焼いてくれるなら、神田もたまには役に立つものだな」

頬がどうしても緩んでしまうのが止められない。

抱き潰しそうなほど抱き締めて、笑いを噛み締めた。

「だけどな、そんな気味の悪いことは考えないでくれ。 あいつは腐れ縁で悪友だ。それ以上でもそれ以下でもない。俺には、お前だけが大事なんだ、分かっているか?」

顔を覗き込み額に唇を押し当てると自分の言ったことに照れているのか顔を赤らめた諒に苦笑する。

「想像してみろ。気持ち悪いぞ・・・・」

「・・・・・・ぅ」

焼きもちを妬かれるのもたまには悪くない。

今まで焼きもちを妬かれてもうっとおしいだけだったのに、諒が妬いてくれただけで嬉しいと思う。

終わってるな、俺も。

「俺は、いつも妬いてるぞ。お前が誰かと楽しそうにしてるだけで、苛々する。たまにはお前が妬いてくれるのも、悪くないな」

頬に濡れて張り付いた髪を後ろに流し、頬に手を添えて撫でると目元が赤くなる。

そこに唇を落とし、目を閉じた瞼にも口付けた。

「本当に・・・、可愛いよ。お前は」

そのまましばらく浴槽の中で抱き合い、二人の頭の中からは玄関の前で扉が開かれるのを今か今かと待っている神田の事は綺麗さっぱり消えうせていた。





1時間後、やはりまだ待っていた神田を中に入れ諒の焼きもちの話をするとさすがの組長も気持ちが悪かったらしく、その日はそうそうに帰っていった。






終わり




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あきゅろす。
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