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不可解な熱
粉雪1(不可解な熱パラレル)
加賀谷は存在しません。田村さん×諒





しんしんと静かに降り積もる雪が辺り一面を真っ白な世界に変えてゆく。

無垢なその輝きに見入っているとそのままどこか別の世界へと誘われていくような気がする。

非日常なその銀世界は、まるで自分の為に用意されたように見えて、ふとそんなことを考えて自嘲気味に笑うと、後ろから柔らかな声が聞こえた。

降り積もる白い雪を綺麗だと思いながら、まだ誰の足跡もついていない雪道に自分の足跡を一番につけたいと願うように、彼の純真さを時にめちゃくちゃにしたいと思う欲望が自分を包む。

踏み潰して、穢して、それでも愛していると言ってくれるだろうかと。

そんな慎一の心など知る由もなく、恋人はただひたすらに一途な眼差しを向けてくる。

「たむ・・・・、慎一さん。 どうしたの?」

いまだに上司と部下だった頃の癖が抜けない恋人は、田村の名前を呼ぶたびに顔を赤らめて恥ずかしそうにする。

そんな様が余計に田村の嗜虐心をくすぐるのだとは思ってもいないだろう。

「なんでもない。 ほら、雪がかなり積もってきてる。」

田村に手招きされて諒が隣に立ち、寄りかかるように体を寄せてきた。

小さなその肩を抱き寄せて田村はそれでも実際に傷つけたり踏みつけたり出来ないのは恋人が愛しくて堪らないからだ。

啼かせたいと思いながらも愛しすぎて欲望のままに彼を穢すことが出来ない。

どこかで諒を神聖視している自分に呆れる。

初めて出会った時、下ばかり見ている諒が小さな動物を連想させて、可愛い子犬を見ているようだった。

諒を知れば知るほど愛しさが田村の身のうちを支配していき、気づいた時には誰よりも大切な存在になっていた。

純粋で人を疑うことを知らない、その癖殻に閉じこもって人との間に壁を持った諒が田村に心を寄せたのはある意味当然のことだったかもしれない。

いい上司を装いながら常に傍にいて、何かあるごとに手を差し伸べた。

どんな手を使ってでも手に入れる、誰にも渡しはしない。

俺だけのものだ。

そんな気持ちで諒の傍にいたことを、彼はしらない。

理不尽な上司からの叱咤に落ち込んでいた諒を誘い、好きだと告げた。

驚き、怖がりながらも受け入れてくれたあの日のことは一生忘れないだろう。

だが手に入れてしまうと今度は失う恐怖が田村を襲った。

どんな田村も受け入れてくれる諒の存在は田村が思っていたよりも大きくて、もしも諒が田村に背を向けたら、自分は恋人を殺してしまうかもしれない。

誰かに奪われるくらいならいっそこの手でその息の根を止めて、その亡骸を一生腕に抱いて自分も朽ち果てる。

そんな暗い想像に囚われたことは一度や二度ではない。

そんなこと知らないだろう恋人は、誰よりも澄んだ瞳で田村を見つめる。

「慎一さん・・・?」

無言のまま外に降り積もる雪を見据える田村を諒が見上げ、腕に手を添える。

柔らかな温もりが腕を伝い、田村は苦笑して諒を振り返って抱き寄せた。

「愛しているよ・・・、諒。」

小さく儚いこの無垢な存在は自分だけのものだ。

誰にも渡さない。

「僕も・・・・、あの・・・好きです・・・・。」

腕の中で恥ずかしそうに呟いた諒を抱き潰すように力を込めると背中に回された腕がそれに応えるように田村のシャツをぎゅっと握った。

少し体を離して身を屈め、諒の唇をそっと塞ぐと甘い吐息が漏れて、それすら愛しくて田村の下半身に熱がこもる。

「んっ・・・・。」

首筋を指で撫でると諒の腰が僅かに震えた。

「慎一さん・・・・、まだ食事もしてないのに・・・・。」

ちらっとリビングに目をやると老舗レストランから取り寄せた数々の料理がテーブルの上に所狭しと並べられ、冷やされたワインもまだそのままだ。

初めて二人で過ごすクリスマスだからと田村が用意したもので、部屋に上がると諒は目を輝かせた。

広々としたリビングは田村の性格をあらわすように綺麗に片付けられている、だけどどこか寂しい風情の部屋に諒がいるだけで温かな雰囲気になる。

「ああ、そうだな・・・・。」

今すぐにでも諒を裸にしてその痴態を見たいという欲求をなんとか宥め、田村は諒の手を引いて椅子に腰掛けた。

綺麗に盛られた料理は確かに美味しい、だが燻ったままの熱が消えなくて田村はそんな自分に苦笑を漏らす。

傍にいるだけで手を伸ばしたくなる。

触れ合えば離せなくなる。

乾いた砂が水を吸い込むように貪欲にいくら飲み込んでも、陽に照らされて砂はまたすぐに乾く。

欲しいと田村の全身が諒を求めていた。

「そういえば、昨日神田さんから電話がありました。」

甘い雰囲気の中でその名を聞いた田村の空気が一瞬にして不機嫌なものになり、そんな田村に諒は目を瞬かせた。

「あの・・・・・?」

「で、神田がなんだって?」

田村の悪友である神田はことあるごとに諒にちょっかいを出し、田村をわざと煽る。

面白がっているのだと知っていても、気に食わないのだからしょうがない。

「いえ、今日の予定を聞かれたんです。 一緒に過ごすのかって。」

そう聞いた瞬間、田村は嫌な予感がして顔を歪めた。

「あいつ・・・・、今度はいったい何を。」

はき捨てるように田村が呟いた時、玄関のチャイムがリビングに響いた。

一層嫌な予感がして、田村はその音を無視してワインに手を伸ばした。

「出なくていいんですか?」

田村がどこか不機嫌になったのを肌で感じた諒が窺うように玄関へと視線を流した。

「いい、どうせ神田のやつが何か送ってきたか、それか邪魔しに神田自身が来たんだろ。」

冷えた白ワインを一気にあおり、田村は諒を見つめた。

「神田とまさか会っていないだろうな?」

ぎょっと目を見開いた諒に舌打ちして田村は立ち上がって玄関へと向かった。

田村が初めて誰かに惚れて骨抜きにされていると神田は面白がって諒に構う。

嫉妬させて面白がっているのだ。

「悪趣味な奴め・・・・。」

玄関を勢いよく開くとそこに立っていたのはサンタクロースの格好をして荷物を抱えた男だった。

目を細めて威嚇する田村に男は怯えたように荷物を差し出した。

「神田か?」

低く地を這うような田村の声音にがくがくと何度も頷き、男は逃げるようにその場から消えた。

男から渡されたダンボールを手に田村は眉を顰め、諦めのため息を吐く。

「どうしたんですか?」

「さあな、今度は何を送ってきたんだか。」

リビングのカーペットにそれを置き、ガムテープを剥がす田村の隣で諒が興味深そうな顔をして覗き込んだ。

だがダンボールを開いた途端息をのみ、固まってしまった諒に田村はにやりと嫌な笑みを浮かべた。

「神田にしては気のきいた贈り物だな・・・・、早速使うか?」

卑猥な形をした様々な道具を前に愉しそうに笑う田村に諒の頬がひくひくと強張る。

ひとつそれを取り出して諒の目の前に差し出すと情けないほどに眉をへの字に曲げて泣きそうな顔をした。

「くっ・・・、安心していい。 こんな物を使う気はない。」

可笑しそうに肩を震わせて笑う田村に頬を膨らませ、田村の手に持たれた道具から目を逸らし諒は傍にあったクッションを田村に放り投げた。

「閉まってくださいっ・・・・・、それ」

顔を赤らめて言う諒に笑いながらダンボールを閉じ、リビングの隅に追いやる。

そして諒が座るソファに腰掛けて抱き寄せた。

「諒・・・、少しの間目を閉じてくれ。」

言われたままに目を閉じた諒の手のひらに小さな箱を乗せ、それからそっと唇を合わせた。

「・・・・これ、開けてもいいんですか?」

目を瞬きして諒は頬を上気させた。

頷き、諒の反応を見逃さないようにじっと見つめながら微笑んだ。

「あっ・・・・、これ・・・。 嬉しい!」

箱を開けるとすぐに満面の笑みを浮かべる諒に知らず田村の頬も緩む。

田村が用意したクリスマスプレゼントは以前から諒が欲しがり、だが高額な為に諦めていたブランドの時計。

繊細な宝飾が諒によく似合う。

田村が腕を軽くめくるとそこに同じデザインの時計がつけられていた。

「嬉しい・・・、ありがとうございます!」

諒にプレゼントしたものは女性物で、いかつい男物よりそちらの方がいいだろうと思い購入したが、気分を損ねるのではとの田村の危惧は憂慮だったようだ。

「それから、これも・・・。」

諒の手を取り、目を見つめながらもうひとつのプレゼントを置くと、諒の瞳がどんどん涙に潤む。

「田村さん・・・、いいんですか・・・?」

「田村?」

「し・・・、慎一さん・・・・、これ」

開いた手の平には田村の部屋の鍵。

それを愛おしそうに見つめてなぞる諒に言いようのない愛しさと狂おしさが増す。

「お前のものだ、一緒にここで暮らさないか?」







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