不可解な熱
10
心の芯が冷えてゆく。
頭からつま先まで冷たく凍り、思考は纏まらなかった。
ただパソコンの画面に映し出された画像を食い入るように見詰め、そこから視線を外す事が出来ない。
何度確認してもやはり画像にのっているのは江口と加賀谷で、それはもう否定しようのない事実のようだった。
柔らかくてしなやかな江口の肢体に覆いかぶさる加賀谷の横顔はどこか冷たい。
対して江口はうっとりと加賀谷から受ける愛撫に陶酔しているような表情だ。
鮮明に映し出された画像を息を殺して見詰め、そうしているうちに半時間も過ぎてしまったと気づいたのは内線が鳴り出した時だった。
硬直して上手く動かない腕で受話器を取ると派遣社員の面接の時間を知らせるそっけない男性社員の声。
重たく疲れた身体で椅子から立ち上がると諒はメールを削除し、パソコンの電源を落とした。
裏切ったのかと問う暗く唸る声が耳元で何度もまわる。
絶対に誰にも渡さないと、俺のものだと言ったあの口で江口にも甘く囁いているのだろうか。
熱い身体を江口の細く綺麗な肌に密着させるのだろうか。
加賀谷は、自分を裏切っているのか・・・?
いつから? どうして?
愛していると、お前だけだと、泣きたくなるほどに言ってくれたのに。
本当は愛されてなどいない? 本当は他にも抱いている人がいる?
考えれば考えるほどに思考が暗いほうへと落ちていく。
直接本人に問いただせばいい、そう思ってはみても怖くて口に出す事が出来ない。
一度疑いを持ってしまうと全てが疑わしいものに思えて、あんなにも信じていた人を疑うことがこんなにも簡単なことなのだと諒は愕然とする。
いや、信じていたからこそ、好きだからこそ不安で怖くなる。
手放したくないから、離れたくないからもがいてしまう。
女性と絶えず関係を持っていた加賀谷、そして花から花に飛び交う蜂のように女性を渡り歩いていた彼が一番長く付き合っていた江口。
その事実だけでも諒を追い詰めるのに充分だった。
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