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不可解な熱
8




胡乱な目付きで諒を振り返り、馬鹿にしたような仕草で鼻を鳴らす加賀谷に諒の背筋が震えた。

「裏切る・・・?なんでそんなっ・・・。」

怖い、咄嗟にそう思い身体が加賀谷から逃げようとする。

近寄ってくる加賀谷の眼差しは暗く、まだ心が通じ合う前によく似ていた。

「じゃあ、これは何だ?説明できるのか?」

ワイシャツのポケットから数枚写真を取り出し、加賀谷は諒の顔に投げつけた。

「っ・・・・・。」

足元にばら撒かれた写真に目を落とし、諒は目を瞠る。

写真には今日会議室で田村に慰められ、抱き寄せられた諒の姿がはっきりと映し出されていた。

「な・・・っ、なにこれ・・・。」

「俺が聞きたい、田村さんに抱かれているのお前だよなあ?俺に隠れて田村さんとも上手くやろうってのか・・・?冗談じゃねえ・・・。」

確かに会議室で諒は田村に抱き寄せられ、それを跳ね除けることは出来なかった。

いや、あの時はそうしたくなかったのだ。

田村だけが信じてくれた、胸を張っていろと言って泣いていた諒を宥めてくれた。

だから諒は、田村の優しさに甘えた。

だけどどうしてこんな写真があるのか、あの時会議室には田村と諒二人しかいなかった。

誰かがカメラを仕掛けていたのか、それとも隠れて写真を撮っていたのか・・・。

「諒・・・、俺がお前を手放すと思うか?やっと、やっと手に入れたものを、今更俺が手放すと思うのか?逃げられると思うなよ・・・。」

写真に目を奪われていた諒は伸びてきた手に首を掴まれ、苦しさに目を見開いた。

「うっ・・・、あ・・・・。」

今の加賀谷は諒の言葉など聞こうともしていない。

ただ写真に写された田村と諒の抱擁に激昂し、我を忘れているようだ。

息が詰まる苦しさにもがきながら諒は加賀谷へと手を伸ばす。

「か・・・がや・・・さ・・・。」

「なんでだ!諒っ・・・、田村さんが好きなのか?俺の事は・・・もう、嫌になったのか・・・?」

嫌になってなどいない、こうしている今も加賀谷が好きだ。

諒を責めながらも辛そうな瞳が切なくて、抱き締めてあげたいのに身体が動かない。

ふいに拘束が解かれ、一気に入り込んできた空気にむせる諒を担ぎ上げ、加賀谷はソファに投げ下ろした。

「例え、お前が他の男に惚れても・・・、俺から離れたいと思っても絶対に何処にもやらねえ・・・。お前が目の前から消えるくらいなら・・・、いっそ殺してしまいたい・・・・・。」

泣きそうに歪んだ加賀谷の表情に諒は心臓を鷲づかみにされたような衝撃を受けた。

こんな顔などさせたいわけじゃない。

逃げたいなど露ほども思っていない。

どうして、何故こんなにも伝わらない・・・。

「加賀谷さ・・・、僕は、僕は何処にも行かない・・・。僕は、加賀谷さんしかいらない。他の誰もいらない、誰のところにも行きたくない。」

「じゃあどうしてこんな写真があるんだ!どうして田村なんかと抱き合ってる!?この写真のお前の顔・・・、田村に頼りきって、甘えて・・・・。こんな顔を田村に見せたのか、こんな顔をして・・・あいつに抱きついたのか!」

精悍な加賀谷の顔が歪み、暗くて底のない闇がその瞳に浮かぶ。

以前加賀谷はよくこんな顔をしていた。

諒のことを信じられなかった時の目だ。

「加賀谷・・・・さ・・・。」

「俺のものだ・・・、絶対に田村には渡さない。」

天井の照明が逆光となり、加賀谷の顔がよく見えない。

だが咽喉から絞り出すような声が加賀谷の心情を如実に表していた。







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