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不可解な熱
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江口と加賀谷はそのまま外回りに出かけ、諒は書類を作り直す為にパソコンに向き直った。

外回りに出る前に加賀谷がこちらを気にしていたのは分かっていたが目を合わせることも出来なかった。

きっと諒が江口に嫉妬してわざとしでかした事だと思っているのだろうと思うとこのまま消え去りたい衝動に駆られる。

周囲の人間も諒が江口への嫌がらせの為に使えない書類を作ったと思っているだろう。

女性社員は同情的な視線を諒に寄越してはいたが、男性社員の冷たい視線に諒は心まで凍ってしまいそうな気がした。

手が寒さに硬直したように震え、視界は滲んで見える。

辛いのは加賀谷に信じてもらえないこと。

他の誰よりも、何があっても加賀谷には信じていてほしいのだ。

そして今までは何があっても加賀谷のことを信じていたし、信じてもらえていると思っていた。

それだけが諒の支えでもあった。

気を抜くと涙が零れ落ちそうになるのを必死に堪え、なんとか新しい書類を作り終えるとそれを待っていたかのように内線がなり、取り上げると田村からだった。

会議室の扉を開き、書類から顔を上げた田村が痛ましげにこちらを見るのに、さきほどの事をもう知られているのかと思うと足がすくんだ。

「高田、大丈夫か?何があったかは知らないがお前がわざとあんなことをするとは思っていない。皆も分かっているさ、だから気にするな・・・。」

扉の内側で立ち竦んだままの諒の傍まで来るとそっと髪を撫でてくれる優しい仕草に喉元に何かが込み上げる。

零れ落ちないように堪えていると肩が震えた。

「江口は加賀谷がお前を大切にしているときっと気づいたんだろう、だから気に食わないんだ・・・。それだけのことだ、胸を張っていろ。お前がきちんと仕事をしていることは他の誰より俺は知っている。それじゃ不満か?」

硬く目を瞑った諒の顔を覗き込み、茶化すように頬を抓られると思わず肩の力が抜けて諒は苦笑を洩らした。

笑った諒に安心したように微笑まれ、その優しさに溢れた田村の表情に諒は込み上げてきた嗚咽をもう止めることが出来なかった。

後から後から零れ落ちる涙をただ黙って拭ってくれる指先の温かさに冷たく冷えていた心が解されていく。

そしてそっと抱き寄せてくる腕を振り解くことなど、今の諒に出来るはずがなかった。







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