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不可解な熱
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嫌な予感というのは当たるものだ。

目の前で繰り広げられる光景に目を反らしたいのにどうしてかそこから目が離せなくて、諒はきりきりと痛む胸を無意識に押さえた。

過去の事、終わった事、そう思ってはみても簡単に割り切れない自分の女々しさに嫌気がさす。

彼女の手が加賀谷の腕に触れる度、その腕を外したくてしょうがなくなり、またそんな事ばかり考えてしまう自分が情けなくて涙が滲む。

嫉妬すること自体間違っているかのような自然な光景。

加賀谷の傍に当然のように立ち、当然のように触れる彼女を羨望の眼差しで見詰めることのほうが自分には合っているかのようだ。

彼女が入社してきて2週間、諒の中に小さな穴が開き始めていた。




「この書類、悪いけどすぐに作り直してもらえるかしら?もう少し分かりやすく作ってもらえないと相手方に渡す事なんて出来ないのよ。」

数枚の書類がばさりと諒のデスクに放り投げられた。
先日残業して作ったばかりの契約書だ。

分かりやすくと言われてもいつものように作ったもので、これについて苦情を言われたことは今までなかった。

どう返答していいか分からないままに目の前に立つ江口を見上げると片眉を器用に上げて見下ろされた。

「あの・・・、でもこれは形式どおりに作りましたし、あまり細かくしすぎると後で支障があることも・・・・。」
社長である田村の方針通りに諒は書類を作り上げる。

内容については田村に必ず許可を得ているし、作り上げた後は田村に目を通して貰っている。

「私が取ってきた契約よ、私の言うとおりに契約書を作ってもらえないと困るのよ。あなたみたいな事務員に契約の何が分かるの?」

耳元に顔を寄せて江口はそう諒に言うと長い髪を後ろに流し、小さく溜息をついた。

「書類に関しては貴方に頼むように社長から言われてるから仕方ないけど、もう少しましな仕事をしてくれるかと思ったのに。」

他の社員が出払ってフロアに誰も居ない時、江口はこうして諒に冷たく当たる。

他に誰か居る時には優しいふりをする江口に対して皆の印象はすこぶる良い。

諒の事を気にいらないのだろう、目の敵のようにきつくあたっては諒を貶める。

「・・・すみません、すぐに作り直します。」

「頼んだわよ、同じ事を何度も言わせないで。」

小さく肩を丸めた諒につまらなそうに鼻を鳴らし、そのまま田村のいる会議室へ消えていった。

諒は口をぎゅっと噛み締め、投げつけられた書類をゴミ箱へ落とした。

パソコンへと向き直り、江口の契約を見直すために資料を呼び出した。






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