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不可解な熱
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月曜日独特の気だるさを身に纏ったまま出社すると早速田村に呼ばれ社長室へと書類ケースを抱えていく。

その後姿をじっと見据える視線があることは知ってはいたが、これは仕事なのだ。

ここは田村の会社で、自分達は従業員に過ぎない。

仕事とはやらなければならないものなのだから。

「土曜に頼んだ書類、出来てるか?悪かったな、急に頼んだりして。」

颯爽とした顔には疲労の影は微塵もない。

土日の休みをもらっている自分達とは違い、田村はほとんど休んでいないのを諒は知っていた。

だからこそ少しでも田村の負担を減らしたいと思っている。

「はい、一応確認していただけますか?」

「高田の書類はいつも完璧だろ、お前に頼ってばかりで悪いと思ってるよ。 加賀谷にもまた怒られたんじゃないのか?」

見透かされているようで気恥ずかしさを感じて俯いた諒の頭を大きな手が撫で、すぐに外された。

「大丈夫か?また無茶なことされたんじゃないだろうな。」

優しく慰めるようにそう言う田村をどうして加賀谷はあんなにも疑うのだろう。

いつもと変わらずに頼りになる上司の田村を見上げ、諒は笑って頷いた。

「そういえば今日から新しい人が入るって言ってませんでしたか?まだ見えられてないようですが・・・。」

田村がどこかで見つけてきた優秀な営業マンが今日からこの会社に入社すると先週発表があった。

だがまだそれらしき人はフロアには見当たらなかった。

「ああ、まだのようだな。時間にルーズなタイプじゃないからそろそろ・・・・・。 ほら、来たぞ、彼女だ。」

田村に促されてガラスで仕切られたパーテンションから覗くと、フロアにざわめきが起こっている。

諒もまた田村が指し示す相手を見て思わず目を瞠っていた。

「あの人が・・・・・?すごく綺麗な人ですね。」

長く腰まである髪は黒く艶やかで、見事としかいいようのないプロポーションにしなやかな手足。

白い肌はまるで光を放っているかのようで眩しくさえある。

そして何より印象的な目はくっきりとしたアーモンド型で黒い髪とは対照的な琥珀色をしていた。

お姉さん的な柳瀬も充分美人だが、彼女はまた違った魅力を持っている。

健康的な柳瀬とは違い、魅惑的な色気というか。

「美人だろう?そりゃあの加賀谷の一番長い恋人だったからな。」

さらりと言われた言葉に一瞬動きが遅れた。

鈍い頭が田村の言葉を理解するにつれ、小刻みに身体が震えてくる。

「加賀谷さんの・・・・・恋人だった人・・・・?」

「まあ恋人というよりは、セックスフレンドと言ったほうが分かりやすいかもな。彼女はたくさん居た女の中でも一番加賀谷と付き合いが長かった女性だ。知らなかったのか?あいつに何人もいたこと。」

加賀谷に付き合っていた女性がたくさんいたことはもちろん知っている。

身体だけの付き合いの人が同時期に何人もいたことも。

加賀谷と女性との情事を偶然目撃したこともあった。

だがまさか同僚として同じ会社で同じフロアで働くようになるとは思っていなかったし、こんなに綺麗な女性は見たことがない。

敵わない、そう思ってしまう自分がいた。

「俺もそれを知ったのはうちで働かないかと口説いた後だったけどな。別にもう終わったことだし、今はお前がいるから間違いは起こらないだろうと思ったから・・・・。悪い、言わない方が良かったな。」

青褪めた諒に気付いて田村がそっと視界に手をかざす。

薄っすらと滲んだ涙を隠してくれたのだと気付いたのはそれが零れ落ちた後だった。






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