不可解な熱
1
曜日の感覚が消えうせたような土曜の午後、暑い日差しに眩暈を感じて目に付いた 喫茶店の扉を開く。
一気に涼しい風が頬に当たり、やっと息が吐けた気がした。
席に着くとオーダーを取りに来たウエイトレスにアイスティを頼み、何度も着信があっていた携帯を取り出す。
そこに同じ名前をいくつも見つけ、諒は知らず目を彷徨わせた。
些細な口げんかだった。
いつものように寝ているところを優しく起こされて、温かな腕に抱き寄せられた。
そのまま今日の予定を楽しそうに話す加賀谷を幸せな気分で見ている時、諒の携帯が鳴り響いた。
田村からの仕事の電話に答えていると目の前にある加賀谷の顔がどんどん険悪なものへと変貌していった。
また勘違いをして見当違いな嫉妬をしているのだろうかと目を反らし電話を終えると案の定携帯を取り上げられ電源を切られた。
「わざわざ休みの日に電話を掛けてくる内容じゃないよな、あの野郎絶対わざとだっ・・・・・。」
そう息巻く加賀谷に溜め息を吐くと余計に眉間の皺が深くなり、不機嫌極まりない顔になる。
顔を洗おうと洗面所に行くと後ろについてきて、着替えようと寝室へ行くとまだついてくる。
「もうっ、どうしてそんなに怒るんですかっ。」
田村が絡むといつもこうなるのはもう慣れた。
だが諒自身のことまで疑うとなると話は別だ。
いつになったら安心してもらえるのだろう、いつになったら疑わなくなるのだろう。
そんなことばかり考えるのは正直もう嫌だった。
「お前を疑ってるわけじゃない、ただあいつはお前を・・・・。」
いつになく怒りをたたえた諒の顔に先程までの不機嫌ななりを潜め、宥めるように身体に触れてくる。
田村に好きだと言われたことは確かにある、だがそれはもう過去のことで今はただの上司と部下でしかない。
どうしてそれを分かってくれないのかと歯痒い気持ちが諒の中にはある。
自分が好きなのは加賀谷1人で、これからもそれは変わらない。
「今日は別行動しましょう、お互いに頭を冷やすべきです。」
そう告げて引き止めようとする加賀谷を振り切って出てきたはいいもののもうすでに加賀谷のことが気になってしょうがなかった。
今頃きっと地の底まで落ち込んでいるだろう姿が簡単に浮かぶ。
だがこうして以前は出来なかった喧嘩を出来るようになった今がとても嬉しい。
まだ心が通わなかった頃は、加賀谷の機嫌ばかりを窺い何も言い返すことも口出すことも出来なかった。
加賀谷は諒がどんなに怒っても必ず許してくれると知っているし、諒も怒ってはいてもそれを加賀谷が受け止めてくれると知っている。
冷たいアイスティを咽喉に流し込みながら、味気ない気がしてすぐにストローから口を離した。
また鳴り出した携帯をしばらく眺め、ふっと息を吐いてから通話ボタンを押す。
耳にあてるとやはり加賀谷の殊勝な声が聞こえ、思わず苦笑を漏らした。
今どこにいるのかとの問いに素直に答えると電話はすぐに切られ、諒は加賀谷を待つべく喫茶店の外を眺める。
「もう、半年・・・、まだ半年。」
お互いの気持ちを確認しあってからまだ半年なのだ。
互いを知り、信頼し合うための時間はこれからたっぷりある。
そう自分に言い聞かせるように何度も心の中で呟き、氷の解けてしまったアイスティで乾いた唇を濡らした。
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