不可解な熱
2
声にならない断末魔が響き渡り、神田はやれやれと倉庫の外に出て空を仰いだ。
倉庫の奥では田村が手に持っていたナイフで数人の男に押さえつけられた身体にゆっくりと傷をつけていく。
じわじわと流れ出す血を汚らわしいものを見るように眺め、それからまたナイフを突き立てている。
肩から腕にかけて少しづつナイフが肉を裂く。
激痛と恐怖に男が失禁したのに眉を顰め、田村はナイフを一旦引き抜き、それを男の手に突きたてた。
「ぎゃああああああああっ!」
口から泡を零しながら男は呻き、身体を身悶えさせた。
「汚い。」
そう一言だけ呟き、田村は男の肩にまたナイフを刺した。
骨にあたり、止まったナイフを引き抜き、また刺す。
無表情でそれを繰り返す田村に神田の部下が慄き、顔を青褪めた。
無慈悲で無情な田村の顔には一切の躊躇は感じられない。
ただ己の愛しい存在を穢そうとした男が死にたいと思うほどの恐怖を味あわせたいという思いしか田村の中にはなかった。
この醜悪な人間があの綺麗な存在に触れたということが田村には我慢ならなかった。
吐き気がするほどの憎悪が田村の中を占める。
こんな男に触れさせる為に一度諦めたわけではない。
手に入れる為に、確実に手中に収める為に一度身を引いただけのこと。
加賀谷を異常だと言いながらも、田村は自分自身にもその異常な執着があることを知っている。
高田にはそうさせる何かがあった。
小さくて弱くて、だが時々ハッとするほどに強くて優しい人間。
人の痛みや孤独に敏感で、それを受け入れようとするあの穏やかさは、強くなければ有り得ない。
だからこそ加賀谷や田村のような男は高田を欲しいと思うのだ。
自分を受け入れてくれるのは、包み込んでくれるのは高田しかいないと思わせたのは高田自身。
そう転嫁する自分を自嘲気味に笑い、田村はなおも男の身体にナイフを突き立てていった。
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