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不可解な熱
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※暴力的なシーンを含みます。田村さんサイド












血の匂いと汗の匂い、そして濁った精液の匂いが鼻につき田村はその秀麗な顔を顰めた。

暗い倉庫の奥からは鈍った音が外まで響き、中で行われていることを想像させる。

口に銜えていた煙草を軽く弾き、靴で踏みつけてから田村は倉庫の中へと視線を戻した。

顔は顰められているが、それは嫌悪感ではなく、吹き荒れる自身の心を表す。

収まらない怒りと嘲り、そして侮蔑。

田村は倉庫内で見るも無残に裸に剥かれ、猛々しい男のものを口に咥えさせられ、なお且つ後ろからは二人に犯されている醜悪な姿を目を細めて眺めた。

後ろは裂け、血の匂いが充満している男の姿ににやりと哂い、田村は手に持っているナイフを月の光に照らした。

ナイフを見つめる鋭い視線はどこから切り刻んでやろうかと獲物を狙うように獰猛で、それを目にした数人の男が身震いする。

「殺すのか?殺すなら俺達に任せておけ、お前が手を汚す必要はないだろう。見たところ健康そのものだ、中身を売ればかなりの金になる。」

田村の横に並んだ男がうっそうと笑い、倉庫の奥で意識を朦朧とさせている醜い男を見やった。

男はがっしりと厳つい身体を伸ばし、それから欠伸を噛み締める。

血を流す人間を見るのも、死ぬ場面もこれまでに何度も見てきた男にとってこういった状況はさして興味を引くものではない。

ただ田村が引き摺り、目の前の差し出したからこうして侮辱を与えているだけで。

「神田、殺しはしない。ただ生きている事を後悔させてやるだけさ・・・・。」

田村の目の奥に潜んだ暗い闇を覗き込み、神田と呼ばれた男は肩を竦めた。

神田の知っている田村は己の欲望に忠実で、目的の為なら手段を選ばない狡猾な男だ。

その田村がなんの得にもならない行為をあえてしている事に神田は興味を引かれる。

そしてこの田村をこれ程までに激昂させた男が一体何をしたのか気になったが、今の田村にそれを聞くのは何故か憚られた。

普段は飄々とし、何があってもその顔を歪ませることのない田村の常にない表情が酷く印象的であった。

「ま、お前の好きなようにしな。後始末は専門家に任せろ。」

神田はのんびりとした口調でそう言い、煙草を銜えた。

神田と田村は中学時代からの腐れ縁であり、互いにとって唯一友と呼べる存在だろう。

お互いにそれとは認めはしないが。

二人の付き合いは例え神田が極道の世界に染まっても変わることはなかった。

「お前にこれほどさせるなんて一体相手はどんな奴だ?よっぽどいい女なんだろうなあ・・・・。」

感慨深げに神田が片眉を上げると、田村はシニカルな笑みを浮かべた。

誰にも執着も興味も持たない田村が惚れた女を想像しながら神田は相手の女はさぞ大変だろうと見知らぬ女に同情した。

自分以外は本気でどうでもいいと思っている田村が本気になれば、相手の女が泣くのは目に見えている。

もちろん惚れた女を不幸にするような男ではないが、惚れた相手への執着心は並ではないだろう。

得てして行き過ぎた執着は相手を苦しめかねない。

今目の前で血だらけになって呻いている男はその象徴であり、田村の異常さを如実に示している。

田村は何も言わないが多分この男はいらぬ食指を動かし、田村の逆鱗に触れたのだ。

男を連れて来たときの田村は怒りに冴え冴えとした冷たい表情のままにこう言ったのだ。

「あいつに触れたこの男の腕を削ぎ落とす。」

あいつというのが田村の相手なのだろうとはすぐに悟った。

田村に惚れた相手が出来たことは早いうちに気づいていた。

それがどんな女なのかまでは知らなかったが。

余計な事は聞かない、それが神田と田村の暗黙のルールだった。






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