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不可解な熱
7




それから昼過ぎまで諒はもう一度睡眠を取り、起きると腰もましになっていたからリビングで過ごした

一人で過ごす時間は酷く長く感じられ、そしてどこか心細かった。

やっと夜になり、仕事を終えた柳瀬女史が部屋に来た時、思わず諒は安堵の溜息を吐いた。

「途中で買ってきたの、食べよう。」

ファミレスの持ち帰りを両手に抱えて柳瀬女史が開口一番にそう言う。

細い身体のどこにそんなに入るのかというくらいに彼女はよく食べる。

リビングのテーブルに並べ、ビールを飲みながら二人で食事をし、それが終わると諒は意を決したように柳瀬女史を見詰めた。

「柳瀬さん、昨日はありがとうございました。柳瀬さんが気づいてくれなかったら・・・。」

頭を下げる諒に女史はあっけらかんと笑い、諒の頭を撫でた。

「いいのよ、なんだかね変な感じがしたのよ。あの男を見た時。それで会社に戻って社長に言って調べてみたらあいつ確かに田島出版に昔は勤めてたの、でも不祥事を起こしてくびになって・・・・・。それが男への暴行未遂だって言うじゃない。知り合いの警察に電話して聞いたらそういう性癖の人間だって聞いて慌てて加賀谷くんに連絡してここに来たの。」

まさか加賀谷が東京に戻ってきているとは知らなかったけど、そう苦笑して女史は話を続けた。

「あの男は誰かを襲って犯さないと快感を得られない性癖なの。高田くんは不幸にも物色中のあいつの目 にとまっちゃったのね。あいつは頭がおかしいの、だから犬に噛まれたと思って忘れなさい、もう二度とあいつは現れないから。」

にっこりと艶然と笑う女史の言葉にどこか引っかかり、諒は首を傾げた。

「あの人、あれからどう・・・・。」

田村と女子が連れ去ってからどうなったのか、諒は不安になって女史を見詰めた。

ビールを咽喉を鳴らして飲み干して、柳瀬女史は楽しそうに目を細めた。

「あいつね、社長がどっかに連れてったわ。どうしたかはあたしも知らない。でも社長が今日言ってた、あいつは二度と東京に戻れないって。」

殺しはしてないだろうから安心しなさいと笑われても、諒は曖昧に頷くしか出来なかった。

「大丈夫よ、社長が誰かに引き渡した筈よ。自分の手は汚さないでしょうし、あの人もどことどう繋がってるか分からないタイプだしねえ。誰かにお灸据えられて東京から追い出されたってとこかしら。だからもうなんにも心配しなくていいの。高田くんは加賀谷くんのことだけ考えてればいいのよ・・・・。」

ふふふと笑ってそう言う女史に一瞬頷きそうになって諒はハッと目を瞠った。

「何よ、ばれてないとでも思ってた?あ、でも知ってるのあたしと社長くらいだから安心してね。」

そう言われても動揺を隠せない諒は目を彷徨わせた。

「あたしのこと、口が軽いと思ってる?心外ねえ。」

わざと落ち込んだように俯いた女史に慌てると、顔を上げて笑った女史に毒気を抜かれたように諒は肩の力を抜いた。

女史が口の軽い人だとは思っていない、ただ自分たちの関係を知られているというのは酷く恥ずかしくて居たたまれなかった。

「しかし加賀谷くんの勘の良さには驚いたわ。犬並みの嗅覚よね・・・。」

なんのことか分からずにきょとんとした諒に苦笑して、女史は新しいビールに手を伸ばした。

「高田くんに何か起こるって予感がして帰ってきたわけでしょ?わざわざ新幹線に乗って神戸から。さすがというか、なんていうか・・・。高田くんに関してだけなんでしょうけど、普通嫌な予感がしたくらいじゃ帰ってこないわよ。それにあたしは自分の敵じゃないっていうのも嗅ぎ分けてるのよね、ほんと犬並み・・・・、というか獣・・・?」

本能なのよね、と言う女史がなんだかおかしくて、諒は思わず破顔していた。

涙を浮かべながら笑う諒に女史は釣られて笑い、納得したように頷いた。

この笑顔が社長と加賀谷を落としたのかと一人柳瀬は心の中で呟いた。





結局西川がどうなったのか田村は教えてくれず、そして加賀谷は一週間の予定を繰り上げて東京に戻ってきた。

平穏な日常が戻り、諒はいつしか襲われた記憶を加賀谷によって忘れていった。

傍にあるのは優しくて熱い加賀谷の情熱。そして温かい人達。

それだけが愛しくて大事な存在。

そして触れてくる加賀谷の指先が、諒の存在自体を認め、癒し、居場所を示してくれる。

休日のベッドの中、諒は加賀谷の指先を感じながら、今ある幸せを失くさないように加賀谷の指に自分の指を絡めた。




終わり



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