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不可解な熱
5


次の週、諒は明日の会議で使う資料を頼まれ、一人残業で残っていた。
人一人居ないフロアは静まり返り、諒は早く済ませて帰ろうとパソコンに向かう手を早めた。
「あれ、高田まだ残ってたのか?」
集中していたところに突然聞こえた声に驚いて顔を上げると鞄を手にした加賀谷が居た。
今日は営業先から直帰のはずなのに、何故ここにいるのだろうと思い、諒はハッと顔を赤らめた。
もしかしてまたあの秘書と会う予定なのかもしれない。
「加賀谷さんこそ・・・、こんな時間にどうしたんですか?」
震える手を隠すように机の下におき、パソコンへと向き直った。
「俺は明日の会議に出す予定だった報告書をやり直すの忘れててさ、慌てて戻ってきたんだ。お前それ明日の会議で使う
資料だよな?また押し付けられたのか?」
顔を顰めて加賀谷は小さく溜め息を吐いた。
本来こんな資料を作るのは諒の仕事ではない。
断りきれない諒に同僚が押し付けて帰ったのだ。
「営業の方はお疲れでしょうから、これくらいは僕もお手伝いできますし・・・・。」
思えばほとんどの同僚はこうした時に諒を利用する。
だが加賀谷から頼まれた事はないと漠然と思った。
「営業はそうゆう事も含めて仕事なんだ、これからは断れよ。
資料くらい自分で作れなければ企画を出す資格も、営業に出る資格もない。」
怒ったように言う加賀谷に諒は体を縮めた。
自分が怒られているわけでもないのに、萎縮する諒に加賀谷は苦笑して優しく肩を叩いた。
「もしこれからも無理矢理押し付けられそうになったら俺に言えよ、いいな?」
そう言って自分の席に向かう加賀谷に頭を下げて、諒はやっぱり好きだと思った。
自分のような暗くて詰まらない男に優しくて、平等に接してくれる加賀谷を好きだ。
そしてふと浮かんだのは田村の姿だった。
そういえば田村の方が諒を気に掛け、何かと声を掛けてくれた。
なのに何故こうして好きになったのは加賀谷なのか諒は首を傾げた。
だが考えても分からない事だと田村の姿を脳裏から消し、パソコンを立ち上げて何かを打ち込んでいる加賀谷をそっと盗み見た。
田村と加賀谷の違いなど分からない。
だけど好きだと、こうして見詰めていたいと思うのは加賀谷なのだ。
「・・・・好き・・・・。」
思わず口をついて出た言葉に諒は自分でも驚き、口を押さえた。
「高田・・・・?今、なんて・・・・。」
パソコンを打つ手を止め、加賀谷は目を瞠って諒を見詰めた。
数歩の距離に座る加賀谷には諒の呟きがしっかりと聞こえていた筈だ。
「え・・・、あの・・・・。僕、えっと・・・。」
心臓がバクバクと音を立てて鳴り、諒は上手い言い訳が何一つ思いつかなかった。
男に好きだと言われて気持ち悪いと思わないはずはない。
なんとか言い逃れなければもう二度と笑いかけてはくれない。
そう思えば思うほど諒は追い詰められ、言葉は咽喉につかえて出てこなかった。


今の会社を辞めて、俺の会社で働かないか。


諒の脳裏に田村の言葉が神託のように浮かんだ。
・・・・もし、気持ち悪がられて避けられたら。
辞めればいい・・・・。
此処を辞めて新しい場所でやり直せば、きっと傷も浅い。
二度と会えなくなっても、どうせ叶わないなら・・・・。
言ってしまえば・・・・、終われる。
「僕・・・・、加賀谷さんが・・・・好き・・・です。」




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