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不可解な熱
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初夏の日差しが見えはじめ、ワイシャツの下に薄っすらと汗を掻きだす。

だがまだ朝夕は冷え込み、気を抜くと本 格的に風邪を引いてしまいそうだ。

朝はジャケットを着込んでいなければ寒く、昼間はジャケットを着ているのが酷く暑い。

温度差の激しい今の季節に諒は少し咽喉をやられたようだった。

朝の通勤ラッシュに揉まれながら今日からはしばらく一人でこうして通勤しなければならないと考えると憂うつな気持ちになる。

昨日から加賀谷は神戸に出張している。

新幹線でそう遠くない距離に行っているだけなのに、酷く離れたような気がする。

マンションから会社までは4つ駅を跨いだところにあるが、たった4つの道のりが酷く長く感じられた。

普段は二人で電車に乗ったり、余裕のあるときは加賀谷の車で会社に行ったりするが、今日からはどんなに嫌でも一人で電車に乗らなければならないのだ。

いつもなら加賀谷がラッシュの中を庇うように立ってくれているから感じたことはなかったが、今は人に揉まれ、圧迫感に諒は朝から疲れを感じる。

自宅から通っている時はあまりラッシュに当たることはなかったから、余計に眩暈を感じた。

会社に着くまでの電車内で過ごす15分程度の時間は、いつもなら加賀谷の体温を感じながら守られながらの時間だったのに、今は酷く自分が頼りなく、ちょっとの衝撃でもよろけてしまう。

田村さんの申し出を断わったのは早計だったかな・・・・。

弱気な事を考えて、すぐにそんな事をしたら加賀谷がどれだけ嫌がるかを思いだして、諒はそんな考えをする他力本 願な自分を叱咤した。

たった一週間の我慢だ。

皆嫌々ながらもラッシュの電車に乗って会社まで行っているのだ。

これからも一人で通勤することくらいあるだろうし、慣れておかなければならない。守られること、支えられることに慣れてしまっている自分を変えないと、いつか加賀谷の負担にもなるだろう。

そう考えて、諒は揺れる電車内で足を思い切り踏ん張ってみせた。

だが、カーブで電車がガタガタと揺れだすと諒の身体も前方にいた人に押しかかるように倒れ、掴むところがなくなった諒は知らず前の人のシャツを掴んでいた。

「あっ、すみません。」

顔を赤くしてシャツから手を離した諒を振り返り、目 の前の男性が柔らかく笑みを浮かべた。

年のころは加賀谷とそう変わらないだろう、20代後半くらいのスポーツマンタイプの男性だった。

短く切った髪が爽やかな印象を持たせる。

サラリーマンなのだろう、スーツを着て手には鞄を携えていた。

「大丈夫ですか?掴まるところがないなら、僕に掴まっていて下さい。」

白い歯を見せて男性が笑うが、とんでもないと諒は頭をかぶり振った。

「いえ、大丈夫です。ありがとうござ・・・・。」

お礼を言おうと口を開いたがまたすぐに電車が左右に揺れ、ふらついた諒を男性が抱きとめた。

「わっ・・・・、すっすみません、何度も。」

「いいえ、気にしないで僕に掴まって。こう見えても丈夫ですから。」

にっこりと笑われ、諒は真っ赤になった顔を隠すように俯いた。

もともとあまり人懐っこいほうではない、人見知りが激しい諒はこうした時にどう対処していいのか分からないのだ。

「いつも身体の大きな方と一緒ですよね?今日は一緒じゃないんですか?」

男性は何気なく諒の腕を掴んだままそう言った。

掴まれた手をどうやって離そうかと思案していた諒は男性の言葉に顔を上げた。

「あ、はい。出張でいなくて・・・。」

そう答えながらこんな人ごみの中で自分たちの姿を見知っている男に対して諒は警戒心を抱くこともない。

だから世間知らずなのだという加賀谷の声が今にも聞こえてきそうだが、今の諒にはそんな余裕はなかった。

「そうですか、じゃあしばらく一人で乗られるんですね。結構きついでしょう?この路線は他より乗車する人が多いし。」

「そうみたいですね、こうぎゅうぎゅう詰めだと息が詰まりそう・・・・・。」

男性のおっとりとした物言いにいつしか諒は身体の強張りを解いていた。

田村や加賀谷のように圧倒的な存在感のない、どちらかと言えば柔らかな男の雰囲気に諒は釣られて笑みを浮かべる。

「あ、次じゃないですか?降りる駅。」

男性が人ごみをかき分け、出口まで諒を誘導してくれる。

柔らかな雰囲気ながらしっかりした体つきの男は軽く人ごみをかき分けてくれた。

「すみません、ありがとうございました。助かります・・・。」

降りる駅に着いて、諒は男性に軽く頭を下げた。

それに対し男はまたにっこりと微笑み、「じゃあ、また。」と掴んでいた手を離した。

世知辛い今の時代でもああして優しい人もいるんだなと諒は頬を緩ませる。

そして駅から会社までの道のりを、軽い足取りで向かった。





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あきゅろす。
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