不可解な熱
3
ぐったりとソファに寝転がり、寝息を立てる諒の体を蒸したタオルで拭きあげ、 パジャマを着せてから寝室へと運ぶ。
動かしても起きる気配のない諒の額に口付けて、加賀谷はシャワーを浴びにいく。
戻ってきても運んできた時のまま身体を丸める諒の隣に横たわり、そっと頭を抱えて腕の中に収める。
すっぽりと腕の中に納まる感触が心地いい。
諒の頭に頬を当てると、自分と同じシャンプーの香りがして、加賀谷はぎゅっと抱き寄せた。
寝ていても弄りたいと思ってしまう自分に少し呆れながら、起こさないように顔や髪に触れる。
女顔負けの白い肌に柔らかくて細い髪が軟弱に見えないのは、全体の雰囲気が優しいからだろうか。
時折眩しそうに目を細めて自分を見ていることは知っていたが、眩しいのは諒のほうだと
加賀谷は思っている。
照れたように笑う仕草も、思いきり楽しそうに笑う顔も、戸惑った顔も全てが加賀谷の心を照らす。
知らないだろう、諒。
今まで俺は誰かとデートなんてしたこともないし、どこかに出かけるために計画を立てることもしたことはない。
デートらしいデートは夜飲みに行ってそのままホテルに直行するくらいだった。
付き合ってきた女や男が、昼間にどこかに出かけて腕を組みたがる気持ちが今はよく分かる。
自分のものだと確認したいからだ。
そしてベッドの中では見られない顔を見たいから。
こいつは自分のものだとだれかれ構わず見せ付けたいから。
それに、昼間の明るい日差しの中で笑う顔や、自分を見上げる顔が見たくていろいろな所に連れ回す。
アウトドアなんて諒とこうなる前は興味もなかった。
だが二人で行ったら楽しいだろうと思うと、それが酷く魅力的に思えた。
二人で思い出を作りたいし、少しでも離れている時間は作りたくない。
自分がこれほど恋人に甘い男だとは思わなかった。
喜ぶことは何でもしてやりたい、笑わせたい。
主導権を握っているのは加賀谷だと諒は思っているが、本当はそうじゃない。
諒は多分、誰とでも幸せになれるだろう。
他の男だったり女だったり、きっと誰かと幸せになれる可能性がある。
だが加賀谷は違う。
もし諒が目の前から消えたら、加賀谷は生きる糧さえ失うだろう。
光を失っては、支えを失っては生きてはいけない。
そんな切迫した想いでいることなど諒はきっと知らない。
知らなくていい。
人を愛してしまうことが、諸刃の刃だとは誰が言った言葉だったか。
「・・・・ん。」
もぞもぞと動いた諒がぴたりと加賀谷の胸に顔をつけ、安心したように笑みを浮かべる。
それを見詰めていた加賀谷はふっと顔を和ませた。
不安はいくらでもある。
だけどどうか、
ここに居て、傍に居て。
そんな想いを胸に抱いたまま、加賀谷は静かに目を閉じた。
終わり
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