不可解な熱
2
田村はミーティング室から見えるフロア内を見渡し、そこに頬を赤くして笑う高田の姿を認め、口元を軽く歪めた。
以前同じ会社でただの上司と部下として働いていた時、高田が笑みを浮かべるのは自分か事務の女の子相手くらいのものだった。
それがこの会社に呼び、新しい環境に馴染むとともにだんだんと明るくなっていった。
それは高田の隣で他の社員を威嚇している男の影響だろうと思うと、田村の胸に苦いものが広がる。
あの時、加賀谷が壊れた時わざわざキューピット役をかってでた自分を褒めてやりたいくらいだ。
本当は放っておいてもよかった。
傷ついた高田を慰めて癒して、自分のものにするくらいわけもない。
だがそれでは本当には高田は手に入らない。
面白くもない。
そう思って行動に移したが、今はそれを後悔している。
あの時はまだ高田に対しての気持ちが軽かった。
可愛くてつい構ってしまうペットのような感覚に近かったのが、加賀谷の傍で笑う今の高田を見ると、嫉妬してしまっている自分に気づく。
奪うのは至難の業だろう。
加賀谷は決して高田を離そうとはしない。
だがこうして本気にさせたのは高田が悪い。
そう高田に責任を転嫁させて田村は暗く笑った。
「社長?あの、この書類に印をお願いします。」
ミーティング室のソファに凭れかかっていると、窺うような声に田村はハッとした。
見るとドアのところからこちらを覗いている高田の姿があった。
「ああ、すまない。どれだ?」
笑って声を掛けるとほっとしたように高田が笑う。
その控えめで柔らかな笑みに田村の心も凪いでくる。
「加賀谷は?今日は外回りか?」
先程まで見えていた加賀谷の姿はフロア内にないことに気づいて田村はニヤリと笑う。
「ついでに今度の派遣社員の研修についても相談しよう。悪いがドアを閉めてくれ。」
素直にドアを閉める高田に田村は人好きのする笑みを浮かべた。
高田は今も田村を良き上司として見ている。
きっと田村の心中など知らずに。
どす黒いものが田村の中にもあるのだということを、高田は何も知らない。
外面の良さを今ほど有難いと思ったことはない。
こうして田村と高田が二人きりになるのを加賀谷は快く思わないだろう。
そして嫉妬のままに高田を責める。
それを繰り返していれば高田もいつか加賀谷から離れるだろう。
そんなあくどい計算をする自分の器の小ささに田村は自嘲気味に顔を顰めた。
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