不可解な熱
6
翌週、加賀谷は今まで誰も落とせなかった難攻不落の会社との契約を取り付けた。
今までどんな営業マンが行ってもけんもほろろに扱われていたものを、加賀谷は最後まで諦めずに食いついた。
それが功を奏し、契約に至ったのだ。
あの田村でさえ諦めた契約、それを自分が取れたことに加賀谷は浮かれた。
契約書にサインを貰い、その会社を出たところで本来ならばすぐに上司に報告するつもりだった。
だが不意に高田の姿が浮かび、これを告げたときの高田の様子を思い浮かべた。
驚くだろうが、喜んでくれるだろうと想像すると自然と加賀谷の顔は緩んだ。
そしてふと目に入ったデパートのウインドウに淡い青のネクタイを見つけ、衝動に動かされて購入した。
自分には似合わない色のネクタイ。
わざわざそれを買った意味を深く考えずに、加賀谷は自宅へと直帰した。
会社の終業時間に合わせて高田に電話を掛け、来るまでの間とっておきの酒を取り出して一人煽った。
久しぶりに充足した仕事だった。
営業マンは仕事を取ってきてこその仕事だ。
仕事の取れない営業マンほど情けないものはない。
金より何より、仕事の取れない営業マンにはなりたくなくて加賀谷は今まで走ってきた。
結局負けず嫌いの性質が幸いして、今では会社でもトップクラスの営業成績を誇る。
そして辞めた田村の後を引き継ぎ、係長という役職も手に入れた。
面白おかしく生きてきた、足りないものなど何もないと。
だがそうではなかったようだと、加賀谷は自嘲気味に笑う。
暇つぶし、遊びだと自分に言い聞かせていた高田との関係が、絶対に手放せないのは何故か。
隠れていた感情に今にも名前がつきそうな予感。
遅れてやってきた高田を見た瞬間、心に火が灯るような感覚がした。
これは俺のものだという獰猛な気持ちと同時に、優しくしてやりたいと思う凪いだ気持ち。
訝しがる高田をそっと引き寄せて口付けただけで、下半身に熱が集まる。
N商事との契約の話をすると想像したとおり驚き、自分のことのように喜ぶ姿に思わず頬が緩んだ。
いくら田村が高田を欲しがっても、こいつが好きなのは俺だ。
そして俺は、こいつを手放さない。
その夜は今までで一番優しく抱いた。
傷つけないようにそっと触れ、壊れ物を扱うように優しく。
本当はこうして抱きたかったのだと、泣かしたいだけじゃなく、喜ばせたかった。
初めて心が通じているような触れ合いに、高田だけではなく、加賀谷もまた溺れていた。
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