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不可解な熱
5



そのまま自宅に帰りたがる高田を無理やり留めて、休日の間中身体を繋げた。

だが何度身体を繋げても何か物足りなくて、それを補うようにまた抱いた。

抱き締めていれば心地が良いのに、それがいつか消えるのではと思うと堪らなくなる。

ならば他の人間でもいいではないかと考えても、今は他の人間などどうでも良かった。

体温が高いのか、高田を抱いていると温かい。

寒さをその時だけは忘れられる。

どんなに無茶をしても、酷い扱いをしても、抱き締めるとそっと背中に手を回し、抱き締め返してくる腕に安心する。

無言で許されているような、大丈夫だとあやされているような。

そんな穏やかな高田の包み込む空気にだんだんと馴染んでいる自分がいる。

今は隣で疲れ果て、眠る高田の頬にそっと口付けを落とし、抱き寄せて加賀谷も眠りについた。




翌日高田を送り出してから、加賀谷は田村に連絡を取った。

高田のことで話があると言うとすぐに会うと答えた田村に加賀谷は拳を握り締める。

今は独立し、自分の城を持つ田村。

自信と威厳に満ちた田村に高田が惹かれているとしても、渡す気はさらさらない。

何故こんなにも自分が躍起になるのか、その理由さえ分かっていないのに、どうしても手放したいとは思えない。

田村と待ち合わせた喫茶店で一人珈琲を啜っていると、周囲からの視線を感じる。

顔を上げて視線を辿れば、女や男がこちらを熱く見詰めていた。

加賀谷自身、自分が人目を引くことは自覚していた。

声を掛ければほとんどの人間が着いてくる自信もある。

精悍で甘いマスクに恵まれた体躯。

だがこの顔や身体が妻に捨てられ、自分の子供を捨てた男と瓜二つな姿だと知った時、加賀谷は吐き気と眩暈を感じた。

子供ながらに自分を守るためか、加賀谷の中で母親や父親に関する記憶は曖昧だ。

だから大学生の時、養父母から両親の写真を見せられた時、自分と父親があまりにも似ていることに衝撃を受けた。

養父母は恨んではいけない、許すことが大事なのだと教えてくれた。

だがどうしてもいなくなった両親を許すことは出来なかった。

それを未だに引き摺っている自分が情けない。

「待たせたな。」

ぼんやりしているところに低く重たい声が響いて、加賀谷はハッと顔を上げた。

加賀谷の座るテーブルの横に立つ田村に一瞬気圧された。

相変わらず重圧感のある男だと思う。

優しげに見える顔からは想像も出来ない腹黒さを隠し、誰から見ても好感の持てる雰囲気。

仕事が出来て周囲からの信頼も厚い。

自分にはないその揺るぎなさに、高田が惹かれても仕方がないのかもしれない。

「高田のことで話があるそうだな、あいつがどうかしたか?」

椅子に腰掛け、煙草に火をつける仕草さえ様になっていて、加賀谷は眉を顰めた。

「あいつに会うのは金輪際止めてもらおう、あいつは俺の物だ。」

同じ会社に居た頃は使っていた敬語を今は使う必要はない。

もう上司と部下ではないのだから。

「どういう意味だ?お前のものとは。」

目を細めてこちらを見詰める目の冷たさに、田村の本質を垣間見た気がした。

柔らかかった雰囲気が消え、冴え冴えとした冷たさが伝わってくる。

「そのままの意味だ、あいつは俺のものだ。あいつには近づくな。」

睨みつけた加賀谷の視線を軽く流し、田村は深く煙を吐き出した。

「お前と高田がね・・・、それは知らなかった。だが近づくなと言われて引き下がるつもりもない。 お前のものだとしても、最後に選ぶのは高田だ。お前を選ぶかもしれないし、俺を選ぶかもしれない。 恋人でもないお前に、会うなと言う権利はない。」

やはり田村も高田を同じ目で見ていたとこの時加賀谷は確信した。

同じ会社に居た時、他の人間よりも田村は高田を可愛がり、誰よりも目をかけていた。

その目の中に、部下への好意以上のものを加賀谷は嗅ぎ取っていた。

「高田が最近落ち込んでいるのはお前のせいだろう、そんな男を高田が選ぶとは思えんがな。」

言外にその高田を慰めているのは自分だということを言っているように感じて、加賀谷は奥歯を噛み締めた。

「あんたには関係ない、俺とあいつの問題だ。横から割り込んでこられると迷惑だ。あいつは俺を好きなんだ、あんたじゃない。」

「俺と高田の間にもお前は関係ない、お前になんと言われようと、俺と高田はこれからも会うし、それは高田が決めることだ。悪いがまだ仕事が残っている、これで失礼する。」

それだけ言うと加賀谷の返事も聞かずに田村は立ち上がって喫茶店を後にした。

そんな田村の後姿を見ながら、加賀谷は息を吐き出した。

過去に囚われ、身動きの取れない自分。

前を向き、強さを持って突き進んでいく田村。

どちらを選ぶなんて勝負にもならない。

だが渡すわけにはいかない。

どうしても、手放したくない。

高田の何がそうさせるのかは分からない、だがあの温もりが消えることが加賀谷には恐ろしかった。

一度温かさを知った人間は、それを失うことを恐れる。

自分もそんな弱い人間だったのだと、今更ながら思い知らされる。

そしてそんな自分を、高田ならば許してくれるような、そんな気がしていた。





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