不可解な熱
4
酒に溺れて朦朧としだした頃、自宅の電話が鳴り出した。
バッと身体を起こし、電話に出ると高田からだった。
『遅くなって、すみません。あの・・・。』
「今からすぐに来い、いいな。」
高田の返事も聞かずに加賀谷は電話を切った。
さっきまでの酔いが一気に醒めていくのを感じる。
この俺に黙って誰かと出かけ、連絡さえ取れないようにしていた高田に改めて怒りを覚えた。
俺を好きだと、そう言いながら離れようとしている高田に決して離れることなど許されない事を思い知らせてやる。
インターフォンがなり、加賀谷はソファから立ち上がって玄関へと向かう。
すぐに鍵を外し扉を開いて外に立っていた高田の腕を掴んで引き入れ、壁にその身体を打ち付けた。
「い・・・っ、いた・・・。」
後頭部を打ったのか痛がる高田が怯えた表情でこちらを見上げる。
その顔が自分を拒否しているように見えて加賀谷の胸に何とも言えないどす黒いものが込み上げてきた。
鼻から血が流れる高田の顎を掴んで加賀谷は低く呟いた。
「誰と一緒だった・・・、何処に行っていた。」
座り込んだ高田の顎と腕を掴み、締め上げていく。
高田は涙の滲んだ目で加賀谷から目を背け、答えようとしない。
それにカッとなって加賀谷は思わずその頬を平手で殴っていた。
殴りつけたまま前髪を掴んで顔を上げさせる。
「やっ・・・・、痛いっ・・・。」
高田からは酒の匂いが漂っていた。
目元を赤くし、目を潤ませて一体誰と一緒だったのだと加賀谷はぎりぎりと歯軋りした。
逃がすものか・・・・・・。
怯えて身体を縮ませた高田を肩に担ぎ、加賀谷は寝室の扉を開けた。
ベッドの上に放り投げ、震える高田を見据えた。
「誰と一緒だったのか・・・・、答えろ。」
高田の顎が軋むほど強く握りこみ、暗く光る目で睨み付ける。
それでも涙を浮かべるだけで答えない高田に苛つき、また軽く頬を叩く。
高田の顔が恐怖に彩られていくのを苦い思いで見つめながら尚も加賀谷は顎を掴んで揺すった。
「い・・・・いやっ!離してください!」
加賀谷の形相に恐ろしくなったのか、暴れだした高田に舌打ちして、着ていたシャツを引き裂いた。
「うるせえ・・・・!お前は黙って俺に抱かれていればいいんだ!俺に逆らうな!」
抱かれるのが嫌になったのかと思うと、理性が切れた。
こいつも自分から離れていく。
そして何事もなかったように日常に戻り、そのうち俺の存在を忘れていくんだ。
今まで何度も同じことを繰り返してきた。
女も男も、終わってしまえば後は上手に生きていく。
それを冷めた目で見てきた筈なのに、高田もまた同じなのだと思うと殺してやりたくなる。
こいつは違うと信じたいのか。
馬鹿馬鹿しい。
だがシャツを引き裂き、露になった肌に誰の形跡もないことを確認するとホッとしている自分がいた。
まだ誰も触れていない。
これはまだ俺の物だ・・・・・・。
「誰と居たかは知らねぇが、寝てきたわけじゃなさそうだな。」
卑屈な笑みを浮かべながらそう言うと、高田はぎょっとしたように目を瞠った。
心外なことだと言わんばかりの表情にまた安堵する。
顔をぐしゃりと歪め、泣き出して背を向けるその身体をそっと撫でると、びくりと震えた。
そのまま震える身体や髪を宥めるように優しく触れる。
「も・・・・嫌・・・。優しくなんてしないで下さい!僕はあなたの玩具じゃない!」
逃れるように身を捩る身体を強く抱き締め、髪に口付けたまま低く呟く。
「うるせぇよ・・・、じっとしてろ。このまま、じっとしてろ。」
微かに香る酒の匂いに混じって高田の柔らかな匂いが鼻腔を擽る。
石鹸の香りなのか、高田自身の匂いなのか、甘く優しい匂い。
それを深く吸い込んで加賀谷はふっと息を吐く。
首筋に鼻を擦りつけると、吐息が掛かるのか身体を震わせた高田に低く笑い、耳の後ろに歯を立てた。
「んっ・・・・。」
「それで?誰と今まで一緒に居た。何故携帯を切っていたんだ。」
答ることを迷っている高田の両手を紐で縛り、嫌がる身体を押し開いた。
そしてペニスにも戒めを施し、それを緩く握る。
覚えさせられた快感が身体を走るのか高田は顔を赤くした。
胸の小さな飾りを舐め上げ、チロチロと刺激を与える。
時に吸い上げ、軽く噛む。
堪らずに頭を振る高田を無視して、中途半端に触れた。
張り詰めたペニスから零れる雫を指で刷り込むように撫でると高田の口から甘い吐息が漏れる。
「も・・・無理っ・・・・。おねが、加賀谷さ・・・っ。いかせてっ!」
悶えながらそう懇願する高田の頬に手を添えて、加賀谷は口元を歪めた。
「こんなに酒の匂いが残るほど、誰と今まで飲んでいたんだ。お前にそんな親しい友人はいないだろ。誰だ?誰と一緒だった?」
解放を望んで張り詰めているペニスを握り締めると、堪らずに高田が叫んだ。
「たっ・・田村係長とっ!」
その瞬間、加賀谷は思わず息を飲んだ。
じわじわと血が沸騰していくような感覚。
「田村さんだ?どうしてお前が田村さんと・・・。ああ、お前田村さんに可愛がられてたな・・・・。それで?田村さんと二人きりで飲んで、あわよくば俺の時みたいに抱いてもらおうとでも思っていたのか?」
口をついて出た言葉がまるで真実のように思えて、加賀谷は歯を食いしばった。
田村は加賀谷から見ても大人で、しっかりしたいい男だ。
同じ会社で働いていた時はその手腕に目を瞠ったものだ。
だが同時に腹の読めない男だと警戒心を抱いていた。
そして他の社員に接する時と、高田に対する時との温度の差に加賀谷は気づいていた。
「田村さんなら優しくしてくれるとでも思ったのか?俺から田村さんに鞍替えするつもりか。残念だったな、俺はお前を手放す気はない。」
暗く笑いながら高田の蕾を撫で、指で内壁を抉るように挿れた。
「んっ、ち・・・・違・・・。ただ・・・久しぶりに会おうって・・・なっただけだし・・・、僕は・・・。僕は加賀谷さんの物じゃな、ひぁっ。」
抉るように一気に自身を突きたてると咽喉を逸らして高田は喘いだ。
見開いた目から涙が零れ落ちる。
その高田の前髪を掴み、睨み付けた。
「お前は俺のもんだよ・・・、お前が俺を好きだと言ってきたあの時から、お前は俺のもんだろ・・・。田村さんに泣きつけば助けてくれるとでも思ったんだろうが、諦めろ。今更こんな都合のいい玩具を俺が手放すと思うな。」
そう言った途端身体を強張らせ、さっきまでそそり立っていた高田のペニスが小さく萎む。
それに舌打ちして加賀谷は高田の熱を取り戻すように動き出した。
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